『終末の天気』は原作 作元健司さん、漫画 津覇圭一さんの作品です。1巻の表紙、お巡りさんが捩れながら必死な顔になっている絵が強い印象を与えます。
バイトも「君がいると雰囲気暗くなるから」という理由で切られちゃうニートのダメ男黒川は不思議な力を身につけます。人差し指で人を指して「ban」というと相手を消す力です。例えは職質してきたお巡りさんを指して「交番(ban)なんていやだ!」と叫ぶと、お巡りさんは何者かに捻り潰されるようにして姿を消してしまうのです。
ここから先はネタバレなのでご注意下さい。
黒川はこの力をきっかけに隣室に住む美女、サヤと恋人関係になります。彼女ができて童貞を捨てられると喜ぶ黒川。しかしふとしたはずみで誤ってサヤをも消し去ってしまってヤケになった黒川は、街に出て片っ端から人を消していきます。
ちょうど100人を消したところで黒川は別世界に自分がいることに気づきます。しかも今まで消した相手と一緒に。そして、最初に夢の中で黒川にbanの力を与えた少年の顔を持った謎の存在が皆に伝えます。この世をまた水害で滅ぼすことにした、ここにいるのは生き残るための方舟に乗れるメンバー候補だと。そして方舟乗車券を配りますが、気に入らない相手には渡しません。質問をして彼を怒らせてしまった黒川とサヤも乗車券をもらえませんでした。
気づくと黒川を含めて消えた人間はすべて地上に戻っています。黒川は乗車券をなんとか手に入れようと、持っている相手を襲いにかかります。乗車券を手に入れたと思ったら通り魔に殺された黒川。ところが、気づくと黒川は死んでいません。どうやら乗車券を持っていると死をまぬかれるようなのです。
黒川はサヤを探し、再会を喜び合います。そして夢だったサヤとのセックスがついに…と思うと、サヤは乗車券を手に逃げます。性的に屈辱的な言葉を残して。
黒川はどうしてもサヤをモノにすると固く決意します。再び他人を殺して乗車券を手に入れる黒川。成り行きで不治の病にかかっている少年を手下にしたところ、これは乗車券ではなく乗車抽選券だと指摘されます。当選確率をあげるため、少年と共謀して乗車抽選券を持ってる人間を集めて抽選券を奪う黒川。しかし少年に騙されて抽選券をとりあげられます。
すったもんだしている間に運命の日がきて、抽選券を持った人間は突然の大雨が世界中に降り注ぐ中、富士山頂に集められていることに気づきます。そこには抽選券を盗んだ少年の姿はなく、かろうじて抽選券を手に入れた黒川を含む、最初の100人のうちその時点でも抽選券を持っている人間だけが集められています。
少年の顔を持った存在は一人ずつ、何故生き残りたいか問います。その答えが彼の気にいると方舟に入れます。答えはつまらないものであればあるほど彼にとってはおもしろいらしく、黒川は「セックスをするため」と答えて無事方舟に乗車させられます。
でもサヤは乗れませんでした。そのことに気づいた黒川は自ら方舟を降ります。世界中が水に浸る中、サヤはついに黒川とのセックスを受け入れます。やるからには満足させて、と言うサヤ。最後のシーンは富士山頂に響き渡る「気持ちいい」という声。
この漫画、たしか1巻がお試し無料で読んだのだと思います。Banの力で次々と要らない人間を消していった黒川。サヤといい雰囲気になり、人生初の充実した日々を過ごしていたのに小さな不注意でサヤを消してしまった喪失感、ヤケになってドンドン人をけしていく行動、突然自分の体が他の人達のように捩れて消えていく恐怖。そして大時計のある静かな空間で少年の顔を持つ存在に「君に100人の要る人間を選ばせたんだ」と伝えられる急展開。
ここでとにかくワクワクしました。黒川が自分にとって不要な人間、つまり自分をクビにしたバイト先の店長、交番に連れていこうとした警官、通りすがりの浮浪者、不審な行方不明事件の中心に黒川がいると気づいた刑事、そんな「要る」人間になった中で、サヤを好きで守りたいという気持ち以外は掛け値なしのクズの黒川が、サヤを含めた人々とどう折り合いをつけていくのか、そしてもちろん「要る人間」は何のために要るのか。一番ワクワクするところで1巻が終わりました。
ところが、2巻になるとサヤは1巻での行動が嘘のように黒川から離れ、黒川もサヤに対する愛はなくなって、ただ、屈辱を味あわせたサヤといつかセックスをしてやる、ということにフォーカスし始めました。手に入れられなかった乗車券(抽選券)を手に入れるための動きでも、抽選券と知って手下を使って抽選券を持った人々から巻き上げるところでも、その手下にも実は騙されていたところでも、黒川はゲスそのもの。この物語をどう楽しんでいいのか、私もちょっと迷子になり始めました。
そして突然早まる終末の始まり。これは最初からの計画どおりなのか、早めの打ち切りがきまったからなのかわかりませんが、ちょっと唐突感がありました。方舟に乗れる人間の選定では、少年の顔を持つ存在のクズっぷりがあらわになります。そもそもこの存在が黒川にBanの力を授け、内容も説明せずに100人を集めさせたのは、黒川のようなクズがどんな人間を集めるのかを見たかったから、というクズっぷり。クズが徹底していて、そんな存在に選定されて方舟に乗せて残される人間ってどうなっちゃうんだろうと心配する気持ちもでてきました。
案の定、クズの黒川は方舟に乗って満足気。このあとどう展開するのだろうと思ったところでいきなりのサヤへの執着。方舟を降りて、新しい地球、新しい世界にいくのを、自分を軽蔑しているサヤのために棒にふって自ら死を選ぶというクズ決断。目が点になりました。まあ、新しい世界にいってそこでの生活を描くというタイプの話ではないとは思ったのですが。そして、方舟を降りる決断を自らするところは結構好きでした。
そしてラストシーン。サヤとのセックスの状況のサービスシーンは一切描かれることなく、ただ、引きのシーンで「気持ちいいぃぃ」と一言叫ぶ声。ここで腑に落ちました!ああ、この話はこういう話だったんだ。途中で読んでて何を読んでるのかわからないところもあったし、サヤが2巻になってなんで急にアバズレになったのかもわからなかったし、新しい地球がどんな世界になるかわからないし、100人からさらに選定されて少ししか残らなかった人類、それも多分日本人ばかりが種として生きていけるのか謎だし、神と思しき存在がなんでそんなに意地悪なのかもわからないけど。
とにかくこの話は、童貞の黒川がビッチのサヤを満足させる話だったんだと。
そういう話もいいんじゃないかと思いました。二人のセックスシーンが具体的に描かれてなくて言葉だけだったのもよかったです。
すごくおもしろかったかというと、ごめんなさい微妙ですが、お話として腑に落ちた感でいうと100点の作品です。