鳥籠ノ番

『鳥籠ノ番』はとりがごのつがい、と読みます。陽東太郎さんの作品です。デスゲームの一種でしょうか。登場人物はペア(つがい)になることを要求されます。

一ヶ月前に行方不明になった白鷺雲。彼女を探すために6人の男女が廃墟になった遊園地に集まります。

ここから先はネタバレなのでご注意ください。

鳥籠ノ番 陽東太郎 スクウェア・エニックス

黒辺銀は考えることを一瞬も止めず、かつその考えをブツブツとつぶやいてしまうコミュ障。そんな彼が捜索隊に加わったのは実は雲が失踪する直前から雲と付き合い始めた彼氏だからです。男と一緒にいるのを見たなどと噂が流れていましたが、黒辺は、雲が無事でさえいればそれでいいという強い思いで雲を探します。

カップルで入ると結ばれるという噂のある廃遊園地の廃アトラクションに雲が男と一緒に入ったという噂をたよりに廃墟のような鳥籠をモチーフにした建物に入る6人。そこで気を失う中、梟の面をつけた人物が自分を探せ、と言い残します。気づいた6人は2人ずつ首輪と鎖で繋がれています。鳥籠城のルールは来た道を戻らないことと、選択によって先に進むこと。

おどろおどろしい雰囲気の中、思わず来た道を戻った少女は首輪の装置が作動して命を落とします。1人余った黒辺がピンチになったなか、雲の姉だと名乗る雪が現れます。黒辺は雪と繋がり、危機を脱します。

その後紆余曲折を経て、鳥籠城の中にいた4人が仲間に加わり、そのうち2人が命を落とします。道中は黒辺の推理が冴え、最終的に6人は梟の面をつけた人物を見つけます。

梟の元には雲がおり、梟は黒辺に、自分の命と雲の命のどちらを選ぶか迫ります。自分の命をかけて雲を守ろうとする黒辺に、梟は「真実の愛が見たかった」と告白します。それを見せた黒辺たちと雲を梟は開放しようとします。

しかし、本当の黒幕は梟ではありませんでした。梟の娘、いままで一緒に城の中を彷徨っていた金森がこの事件の首謀者でした。

黒辺の母は未婚で黒辺を産みました。引っ越した街で母は偶然1人の男と出会います。他でもない黒辺の実の父です。彼は黒辺の母を捨てて街の有力者の娘と結婚して娘をつくっていました。黒辺母が自分を脅迫しにきたと早合点した彼は黒辺母を殺します。彼の妻と娘はそこで初めて夫に愛人と隠し子がいたことを知り、ふたりの心は壊れます。それが梟と金森です。

そんな金森が中学生の頃、人を信じない金森の態度を諌める少女が出現します。それが雲でした。金森は雲を恨み、世の中の人々を恨み「死ねばいいのに」と思うようになります。

金森は雪と仲間の1人を撃ちます。そして鳥籠城は崩壊を始めます。黒辺は雲を守り、雲と5人の仲間が生き延びます。

黒辺は自分の行動を後悔はしませんが、雪が命を落としたことも含め自分を責め、雲に会いにいきません。そんな黒辺を諭す仲間が去ると、そこには雲の姿があったのでした。

デスゲームとはいえ、主人公がコミュ障でブツブツ様なところもあって、デスゲームとしての側面よりもキャラクターたちが気になりました。派手な金髪に派手な金色の髪留めをした雲が、コミュ障の黒辺とつきあっているのは違和感があります。だから登場人物たちも2人の関係を知って驚きますが、一方で犯人の金森にしてみれば雲の彼氏だからこそ黒辺を誘い出したい欲求にかられていたので、どうやって黒辺を仲間にいれるかについては相当悩んだことでしょう。

父が黒辺の母を殺した犯罪者になってからの梟(妻)と金森のショックや、周囲の人々の態度の変化にはおそらく耐え難いものがあったと思うので、ふたりが病んだ背景は想像がつきますが、金森が「殺したいとは思わない。ただ、しねばいいのにと思う」と告白したときの絵の迫力はすごかったです。世を恨み、父への信頼を失くし、守ってくれるはずの母が壊れてしまった金森の絶望と世の中への辛辣な気持ちがよく表現されていて怖かったです。

一方で、おそらく数人以上の死者をだしているこの城で、金森の「死ねばいいのに」発言は読者としてとってもショックでした。積極的に殺したいと願っているのでもなく、人の死に葛藤するわけでもなく、ただ死ねばいいのにと望まれて死んでいった人々。直接ひどく恨んでいる雲は1ヶ月も生きながらえさせる矛盾。雲の彼氏だからという理由で無理に黒辺を引きずり出してきた目論見。なんだかたまらない気持ちになりました。

黒辺のブツブツ言うキャラはキライではないのですが、派手な雲の彼氏としては違和感がありました。まっすぐで、自分の意見をはっきり持っていて、逃げているように見えた中学生時代の金森に向き合ってアドバイスした雲。そんな雲が黒辺を好きになるきっかけにはもうちょっと強い印象が欲しかったです。実はしっかりした子で、いざというときには決してぶれずに進む黒辺を、雲が好きになるかな?雲と黒辺の馴れ初めはきちんと描かれていたし、そこだけ読むと違和感はありません。雲が普通に明るくて友達が多い、昔の金森との関係構築の失敗を糧に繊細な気遣いもできる女の子、と考えると、黒辺に惹かれるのもわかる気がします。でも、雲はとにかく派手。ほぼ金髪の髪に金色のごっつい髪飾りをつけて、鳥籠城に彼氏の黒辺ではない男子と入り、その男子が死ぬときに「死なないで。あなたが死んだら私まで死ぬじゃない」と喚いていたことを考えると、黒辺のよさを見抜いてそこに惹かれるような女の子には見えないのでした。

雲のことがよくわからないのは、このお話の中では雲よりも姉の雪のほうが登場人物として活躍しているからかもしれません。雪の容姿は雲によく似ていて、やはり派手な金髪にしているようです。彼女も重い過去から、黒辺とはまったく違う生き方を選びました。選択するときは直感でいいと思う方を選び、一度選んだらもう迷わない。でもその選択を覆す要因がでてきたら選択をあっさり変えることもある。その結果は必ず自分が全責任を負うので絶対に後悔しない。雪は年齢が上なこともあって自然とこのチームのリーダー格になります。本来リーダーにはむいてなさそうですが、初対面の後輩たちをよく導きます。雪も黒辺のよさは理解しますが、つきあおうと思うかというと違うかも。雲は男子を誘って鳥籠城に行くような好奇心のつよい積極的な少女なはずなので、どうしても雲と雪を同一視してしまうところがあります。

他のキャラクターも魅力的ですが、特異なのは郭です。自分は責任を持たない。命じられれば素直に従うというキャラで、イケメンで多才という設定だから成立するものの、普通だったら嫌われ者だと思います。桃洲は、他の女の子が全員振られたのに郭とつきあったといいますが、郭の態度は「君がそうしたいんだったら。君が決めて」というものだったので、それまでの女の子たちはそう言われて勝手に振られた、と思い込み、桃洲だけが「じゃあつきあって」と答えたんでしょうか。謎です。でももしそうだとしたら、自分の生死を郭に決めさせるエキセントリックさもちょっと納得がいきます。

そんな郭は、最後は雪に「私の責任で命じる。みんなを助けて」と言われて、それだけで実際にすべてをかけてみんなを守ります。郭はいったいどんな壮絶な過去を背負ってそんな性格になったのでしょうね。

梟の「真実の愛が見たかった」とか、金森の「死ねばいいのに」は、読んでいてちょっと「へ?そんなことで?」感があります。でも、信じていた夫または父に裏切られて殺人者の家族という過酷な人生を負ったふたりにとっては切実なものだったのかもしれません。

そんなわけで、ちょこちょこ疑問符がはいりながらも、キャラクターの魅力にひっぱられて、この作品もお気に入りのひとつになりました。

次の作品『遺書公開』も、間もなく完結のタイミングで進んでいます。そちらも大好きなお話。陽東太郎さんのこれからにもますます期待です!

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鳥籠ノ番 1巻

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[著者]陽東太郎

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