パーフェクトヒューマン

『パーフェクト ヒューマン』は高橋一仁さんの作品です。頭脳もスポーツも芸術もパーフェクトな人間、世良優人の活躍を描いた作品です。

世良がまず頭角を現すのはボクシングから。生え抜きの学生チャンピオン上がりのボクサーを1ラウンドKO。完膚なきまでに叩きのめします。

ここから先はネタバレなのでご注意下さい。

パーフェクト ヒューマン 高橋一仁 芳文社

実は世良優人は1人の人間ではありません。アカ、アオ、クロ、シロ、モモがそれぞれの得意分野を生かして1人の天才を演じているのです。

こうなったのは父の野望が原因です。地方の医者をしていた父は、身重の女性を保護します。彼女は双子を産み落とし、その後自殺します。父は隠された地下室を見つけそこで見つけた少年と、施設を抜け出た2人の少年、合わせて3人を、双子の顔とそっくりに整形して育てます。

シロとクロはボクシングの実力者。少し体が小さいクロが計量に出てドービングしたシロが戦う方式で勝ちを重ねます。ドーピングを疑う委員も上手に退ける一方で、名家の娘栞と懇意になり、親もてなずけて結婚します。同時に頭脳に優れたアカとアオの働きで司法試験に見事合格してみせます。

そんな中、世良優人の周辺探る記者に秘密をあばかれそうになったアカはその記者の目の前でクロを殺します。証拠を消したというわけです。クロと最も親しいシロは受け入れることができず、誰にもばれないようにすると言い残して失踪します。

ボクサーのシロとクロを失った世良優人はボクシングを引退せざるを得なくなり、最年少で法廷デビューするもかつての輝きは失ってしまいました。次の活動は25歳で政治家になることです。モモのパフォーマンス力で選挙活動にラップを取り入れて若い層をつかみ、栞の実家の金をふんだんにばらまき、政敵の最大の支持基盤の宗教団体の教祖を、1人を装った3人がかりでのセックスで落とし、もう1つの支持基盤ヤクザには栞の妹の葵を嫁にやることで同盟を組み、世良は当選します。その後は副大臣の座につき、有能な女性秘書、灰田を採用します。

政治家の仕事は主にアカが担当しますが、アカは灰田に惹かれ、どうしても手に入れたくなります。首尾よく灰田とベッドに入ったアカは灰田に殺されます。灰田は、女性に整形したシロで、クロの仇を取りに来たのでした。シロはモモも殺しますが、アオには逆襲されてしまいます。

かくして世良優人はアオのみとなります。米国TIMER誌で、世界に最も影響を与える50人のひとりに選ばれたアオはその授賞式に参加します。そこでラップの実演やパンチのパフォーマンスを求めたれたアオは追い詰められます。アオにはアカをもしのぐ明晰な頭脳はあってもその他の才能はありません。秘書となっていた雑誌記者にすべてを告発されたアオは胸元から何かを取り出そうとする仕草を見せます。それが拳銃を取り出す動作とみなされ、アオは警官から集中砲火を浴びて命を落とします。

…という小説を世良優人は発表し、新たな才能の開花としてベストセラー作家の地位をも得るのでした。

最後の小説の話はどこからどこまでが小説なのか、最初に殺されたクロを含めてみんなが生きているのか、わかりません。それまで5人が過ごしていた豪邸の地下室で誰の姿もなくただ声だけが響いているので、なんとも言えない気持ちになります。

まず1巻を読んで思ったのは、5人でひとりを演じるというとってもめんどくさいことを何故このひとたちはやっているのだろう、ということでした。ボクシングで派手に世に出て文武両道なところをみせてカリスマ政治家になり…そして何をしたかったのだろう、というのは読み終えた後でもやっぱり謎です。日本の政治家というのは派閥があったり海千山千の人々が闊歩する伏魔殿で、いくら世良が優秀でも一人で政治を動かしていくのはむずかしそなのと、与党総裁には任期があるので、さすがにそこで政治を転覆させて終身大統領になっちゃったりするのは厳しそうです。

クロとシロは殺されちゃったけど、政治家が目的だったらいずれボクシング担当は要らなくなりそうです。小器用なモモは生きていて価値がありそうですが、アカとアオはいずれはぶつかることになって、本来の双子の分身アカに惚れてるモモは、シロに殺されなくてもアオに始末されちゃうことになってたような気がします。

ただ「という小説を出した。小説で5人居ると書いてしまえばかえって本当には疑われまい」というオチも書いてあるのでなんっとも言えないところです。

栞やその両親に取り入ったり複数で入れ代わり立ち代わりやっていたので、気づかない栞はいくら深窓のお嬢様とはいえ、うっかりさんだと思います。アカとモモは一卵性双生児なので体格も同じだと思いますが、シロはクロより明らかに大きいことがわかっているので、アオも含めてどんなふうに立ち回っていたのか、興味あります。栞を口説くのはみんなでやっていたけど夫婦生活はずっとアカが担当してたのかなあ。

そんなわけで、みんなそっくりなんですが、役割分担がはっきりしてて魅力があって面白かったです。裏切り者の秘書で記者の浦辺の超気持ち悪いキャラもよかったし、ドーピング問題でクロとシロに翻弄される沼地とその過去、世良がパネェ共和国でギャンブルをして1億すったというガセ情報を葵から渡されてまんまとダメ記事を書いちゃう古淵記者なんかもキャラが立っててすごく面白かったです。

最初の「何故こんなことしてるの?」「何を目指してるの?」という問いにはいまいち答えてもらってはいない気もするけど、それでもしっかり好きな作品です。

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