私のクラスの生徒が、一晩で24人死にました。

『私のクラスの生徒が、一晩で24人死にました。』は原作 日向奈くららさん、漫画 石川オレオさんの作品です。高校教師の北原奈保子のクラスの生徒が24人、一晩で死にます。

生徒たちは偽の北原の呼び出しで深夜の教室に集まり、自殺、他殺を含めその死因は24人の中で完結していて他者の関わりはないといわれます。

しかし北原は行方不明になっているほかの生徒たち、なかでもいじめの被害者らしい宮田という少女のことが気にかかります。

ここから先はネタバレなのでご注意下さい。

私のクラスの生徒が、一晩で24人死にました。 原作 日向奈くらら 漫画 石川オレオ KADOKAWA

結論として、宮田以外の行方不明の生徒たちは以前退学になった木村の家で遺体となって見つかります。木村も頸を吊った状態で発見されます。刑事の野々村は戦慄します。発見された遺体の中には娘が親しくしている吹奏楽部の先輩がいて、残留物に娘の指紋が残っていたからです。

野々村は証拠を隠滅します。実は野々村には暗い衝動があり、感情が抑えきれなくなると娘にひどい暴力をふるう悪癖があるのでした。

一方北原は、宮田と話そうとしたときにその目を見ているとなんとも言えない黒い感情が沸き起こってきていたことを思い出していました。宮田を忌み嫌う生徒たちは、自分たちはいじめをしていない、むしろ宮田の持つ悪魔の目が恐ろしいのだと弁明していました。自分の体験とも重なるその噂が恐ろしくて宮田へのいじめを見てみぬふりをしていたことで北原は自分を責め、宮田を発見したら向き合うことを自分に誓います。医者の意見が聞きたいと、従兄の敏行に相談もします。

宮田が所属していた吹奏楽部の部員たちも不審死を遂げ始めます。彼女らも悪魔の目について話題にしていました。野々村の娘の美紀も狙われます。ある日自宅で、正気を失った母に刺され大怪我をするのです。美紀はすんでのところで父に助けられます。

北原が敏行を訪ねると、敏行もまた不審な自殺を遂げています。残されたヴィデオを見ると、宮田よりも小柄な少女が敏行に会いに来ており、その後敏行が自殺したことがわかったのでした。北原はそのことを刑事の野々村に話します。

北原は野々村の娘の美紀に会います。美紀は宮田に謝りたい、そして父を助けて欲しいと北原に訴えます。もし父が宮田を見つけ、悪魔の目を見てしまったら、父はもう正気を保てないだろうと予測しているのです。

野々村らの捜査線上には、宮田を含むいじめの被害者ら数人が会ったことがうかび、ほぼ全員が自殺や殺し合いを行ったとの情報が入ります。唯一の生存者から、佐野という少女が彼らに悪魔の目のレクチャーを行ったことがわかります。

北原は美紀と共にインターネットで情報を集め、佐野の存在にいきあたります。それと同時に、宮田に対して心からの謝罪をメールで送ります。

宮田と佐野はそれぞれ相手の家に入り込み、家族にそれと気づかれないように暮らしていました。宮田の家を訪ねた野々村は佐野と出会います。佐野がすべての元凶でありながら、佐野自身も父親に虐げられた娘だったことを知った野々村は捜査陣にはないしょで佐野を連れ去ります。佐野は人の悪意を一身に集めてしまう性質があり、それが父を狂わせていたのでした。佐野は甘んじて虐待を受け入れていましたが、こらえきれなくなると悪魔の目が発動して虐待してきた相手を自死に至らしめるのです。野々村は、佐野の目に縫い合わせた跡があるのに気づきます。悪魔の目を発動させないことも虐待のひとつであると野々村は気づき、自分を抑えられず佐野の目を縫い合わせます。

そこに宮田が現れます。宮田の悪魔の目を見て野々村は発狂し、自死します。佐野はもう宮田が誰かもわかりません。佐野が悪魔の目を伝授した相手は、野々村と会ったときの宮田を除いて、その能力を十分に発揮することはできませんでした。宮田は不完全な悪魔の目を持ったことでより激しくいじめにあうようになっていたのです。佐野はそんな宮田を助けるために悪魔の目でいじめの首謀者を殺し、宮田のクラスメイトを殺し部活の仲間も殺しました。そうやってことをくりかえすうちに、佐野も少しずつ壊れていったのでした。

野々村の壮絶な死と佐野と宮田の保護の情報は北原と美紀の元にも届きます。北原はもう逃げないと心に誓って宮田の病室を訪れます。心から謝罪すると宮田は「先生のメールを読んだ」と言います。宮田の目の包帯を解いて向き合うと、そこにはもう悪魔の目はなくなっていました。

北原は、誰しもが心に抱える悪の心を認めながらその悪に負けないつよい思いが必要なのだとつよく思うのでした。

タイトルを読んで、24人が死んだということから、その経緯をあばくデスゲームかと思いましたが、全然違いました。悪魔の目にさらされて自分の中に沸き立つ黒い思いに怯えて目を背け、クラスの子どもたちの間で起こっていることから逃げた先生と、自分の娘を愛していながらも感情に任せて暴力をふるってしまう刑事のそれぞれが、嗜虐性を呼び起こさせる子供と向き合ったときにどんな行動にでるかというお話でした。

悪魔の目というキーワードは第一巻からでていて、とても興味をひかれました。それが、実際に悪魔の目を持つ少女からのレクチャーで不完全な形で伝達されたのだということはあとにならないとわからないいので、ただただ怖くて、被害者が加害者となっていること、加害者が悲惨な死に方をしていることが、ホラーをよんでいるようでとても恐ろしかったです。

後悔をしながらも怯えている北原の姿や表情も巧みで、決して強くない普通の若い女性が、先生という立場で生徒としっかり向き合わずにいたことが、あまりにも大きな代償をうんでしまい、それだけでなく本当は自分も死ぬところだったのだという恐怖を味わっている様が見事に描かれていたと思います。相談した従兄も悲惨な死を迎えてしまい、自分こそが原因となった宮田という生徒としっかり向き合わなければいけないのだ、もう逃げてはいけないのだ、と決心する過程が自然に描かれていて、共感のできる作品でした。

刑事が、刑事という立場でありながら自分の暴力的、嗜虐的な気持ちをおさえられずに娘に暴力をふるうところも、自分では暴力をふるいながらも妻をコントロールし、娘を殺そうとした悪魔の目を許せないと感じるあたりの描写も自然だったと思います。さらに、そんな風に思っていたのに、いざ佐野に会ってしまうと、佐野をしいたげたいという気持ちを抑えられないのも、人間の恐ろしさを描いたホラーとしてよくできていると思いました。

宮田の母が、夫が娘に性的虐待していることに気づきながらことなかれ主義で放置していたこと、部屋にいるのが娘ではないと気づきながらもそのことに目を伏せているのも恐ろしかったです。

宮田は結果的に野々村に対して悪魔の目を発揮してしまったけれど、真摯にむきあおうとする北原の気持ちをうけいれようとする気持ちがあってよかったのです。が、佐野のほうはどうなったのでしょう?佐野は単に父親が異常だっただけでなく、野々村刑事の嗜虐性も発揮させてしまう、人間の悪を表面化させてしまう力を持っているのだという印象があります。

佐野は体が小さいこともあって「少女」と思ってたんですが、そういえば日常的にハイヒールをはいて歩いているので、もう少女ではなく、北原と同じような大人の女性なのかもしれません。そんな佐野が両親から距離をおいて生き始め、恋をしたら、相手の男性の中に潜む、誰もが持つ小さい悪意を大きなものに育ててしまうのでは?

人間がとっても恐ろしくなる興味深い作品でした。

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[原作]日向奈くらら [漫画]石川オレオ

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