オズの魔法使い

『オズの魔法使い』は有名な同名児童向け文学を、まんがグリム童話シリーズの枠のなかでオリジナル作品としてかずはしともさんが発表した作品です。

まんがグリム童話シリーズにはおそらくなにか制約があるようでセックスがらみの描写をしなければいけないのかな、という印象をうけました。ジュディ・ガーランドでオズの魔法使いを知った立場だとこのお話にエロ的ギャグはちょっと邪魔に思えてしまいます。カカシ=スケアクロウの顔が子供っぽいエロでちょっと躊躇してたのですが読んでみたらとても面白かったです。

ここから先はネタバレなのでご注意下さい。

オズの魔法使い かずはしとも ぶんか社

カンザスの娼婦ドロシーは、少女の頃に開拓のためにカンザスに来た両親を失い、17歳でこの仕事につきましたが、23歳にしてもう年増扱いされています。町の有力者のやり方にも嫌気がさし、飼い犬のトトを連れてカンザスを離れることを決意します。町を出るとインディアンに拘束され大きな岩に結び付けられますが、襲ってきた竜巻によって異世界に飛ばされます。

ハンサムな若者の上に岩ごと着地したドロシーは若者を助けようと彼が履いたブーツをひっぱります。ブーツは脱げ、若者は砂のように消滅し「東の魔法使いから開放された!」と人々が喜び、ドロシーとトトを英雄扱いして歓待します。種族名をマンチキンと名乗る人々はカンザスのことを相談するドロシーに、オズの魔法使いなら望みを叶えてくれるかもしれないと言います。ことのほかハンサムなオズの魔法使いの似顔絵を気に入ったドロシーは、魔法使いの妻の座を目指してオズがいるエメラルドシティ街を目指して出かけることにしました。東の魔法使いが履いていたブーツをマンチキンから贈られてドロシーは旅立ちます。

道中、スケベでアホなスケアクロウ、心が凍ったブリキの木こり、臆病なライオンと出会ったドロシーは彼らと一緒にいろいろな経験をしつつエメラルドシティにたどりつきますが、オズは西の魔法使いに攫われて不在。ドロシーらは成り行きでオズの救出にむかうことになりました。

またしてもいろんな経験をするなかで、ドロシーたちは「いのちの粉」を扱うチペタリウスと出会います。いのちの粉はそれをふりかけると無生物が生物に変わるというシロモノ。カボチャのジャックや木挽き台に命を吹き込んだチペタリウスとドロシーたちは一度は別れますが、オズを拘束している西の魔法使いを追いかける過程でまた出会います。

旅を続ける中、ドロシーたちは、ブーツについたバックルといのちの粉が同じ奇跡的な魔法をもたらすことに気づきます。その魔法を使って西の魔法使いの腹心を倒したドロシーたちはオズと出会います。しかし、オズは年老いた普通の男で(マンチキンは長命のため、若い日の彼にあった記憶をもとに似顔絵を描いていた)、なんとカンザスから来たというのです。オズはカンザスで左巻きのオパール化した貝殻を手に入れ、それが魔法を起こし、エメラルドシティの王に気に入られ、王亡き後執政として過ごしていたのでした。

そしてオズは、チペタリウスが子供の頃から身につけていた宝石によって、チペタリウスこそがエメラルドシティの正当な王位継承者であることに気づきます。ドロシーはチペタリウスと深い仲になっていました。女王になる夢が叶う!しかしそのためには西の魔法使いを倒さねばなりません。ドロシーたちはどこかにまだ残っているはずの左巻きの貝の行方を探します。

貝を見つけると西の魔法使いも姿を現し、貝殻を破壊しようとします。戦いの末、オズは命を落としますが、ドロシーたちは貝殻を手に入れ、西の魔法使いを退治します。

西の魔法使いたちは本来地底に生きるノームという生き物でした。エメラルドシティが王の帰還に湧く中、ドロシーは財宝をそっと地に埋めます。ノームにも、財宝を手に入れる権利があるというのがその行為の理由でした。

ドロシーはチペタリウスのプロポーズを断ります。理由は2つ。オズで成功した自分なら、またカンザスに戻って町を変える力があると信じ、カンザスに帰る決意をしたこと。もうひとつはトトへの愛に気づいたこと。トトも魔法の力で青年の姿になり、いつもドロシーを助けていました。カンザスにいた頃からずっと自分の支えがトトだったことにドロシーは気づいたのです。でもトトをカンザスに連れていくことはできません。エメラルドシティにいれば人間としての寿命をいきられるトトも、カンザスに戻れば犬として自分よりもはやく逝ってしまう。トトを深く愛するようになったドロシーにはそんなことはたえられないのでした。残っていた貝殻の力でドロシーはカンザスに戻ります。

カンザスに帰ると事態は変わります。町の有力者は体を壊して息子に代替わりします。息子は女好きの欠点はあれど善政をしき、頼りがいのあるシェリフが赴任します。いつも無愛想だった客は妻とよりを戻して幸せになり、ドロシーは娼婦をやめ、娼婦仲間と農場を経営します。人々にはスケアクロウ、キコリ、ライオン、西の魔法使いなどの面影があり、ドロシーは、オズの世界の出来事はすべて自分の夢だったのかと疑い始めます。

でもある日、夢ではなかったことがわかります。草原の向こうから歩いてきた人の姿をしたトトに出会えたからです。まだ残っていた魔法のバックルの力で、トトは人間になってドロシーのもとにかえるという夢を叶えたのでした。めでたしめでたし。

ドロシーは娼婦ですが、キスだけは好きな人としかしないと頑なに拒みます。でもトトだけは犬だから特別。カンザスにいる頃からずっとトトのキスだけは受け入れていました。憧れの王子様に愛されてプロポーズされて、それでもずっと自分の近くにいてくれたかけがえのない相手を選ぶというのは少女漫画の王道だと思います。娼婦という設定があっても、チペタリウスとやることやっちゃってても、やっぱりドロシーとトトの関係は少女漫画的純愛で、その王道のお話がとっても嬉しい物語でした。

最初にも書きましたが、スケアクロウの顔自体が下ねたなところ、たびたびセックスシーンがでてきたり、キコリが処女を犯すバケモノとして登場するところなどは、シリーズの制約として無理矢理埋め込まれているような気がして、私にはちょっとピンときませんでした。お話の途中で、少女たちが囚われて残虐に死ぬまで犯され、ひとり死ぬとまた一人が対象になる、という描写がありました。ここでドロシーは一度犯された娘に、命があるからいいじゃないかと諭し、それはあなたが娼婦だからだと反論されて、少女にとって純潔がいかに大切か初めて気づくというシーンがありましたが、それ以外にドロシーが娼婦である必要はあまりなかったようにもおもいます。他の作品では特にエロを好んで描いていらっしゃる作家さんではないようなので、やはり雑誌としての制約なのかな、娼婦設定がなかったらどうなってたんだろう、とちょっと興味深いです。でも、スケアクロウがとにかくスケベで、しかもいちいち相手のことは純粋に好きだという体質なので、ドロシー側が娼婦ぐらいでないとうまくさばけないかもしれません。やっぱり必要な設定なのかな。

かずはしともさんは、この作品を書くにあたって、原作の続編を全部読まれたそうです。すべて絶版になっていて、絶版になった理由もわかる、と書いていらっしゃいます。実は私も、絶版になる前にオズシリーズは結構読んだのですが、最初の一番有名な作品以外はさっぱり頭に残っていません。作者はもうその作品に飽き飽きしているのに、売れてるからという理由で無理矢理続編を書かされる、自然と作品はつまらなくなっていくし、辻褄も合わなくなっているけれども、作者はそもそも飽きているから気にしない、というのは欧米文学ではよくあるような気がします。私も書棚の大整理をしたときにオズの続編はまとめて処分してしまったので、かずはしともさんの作品を読んで検証のために原作を読むことができず、ちょっと残念です。

ともあれ、オズの魔法使いの1作目は紛れもなく、児童文学として傑作だと思いますし、かずはしさんの作品も勢いがあって内容もおもしろくて飽きることがなく、とても3巻で完結しているとは思えない、内容がぎゅっとつまったすばらしい作品でした。

私の心を鷲づかみにしたのは、チペタリウスが地面のカボチャにちょっといのちの粉をふりかけて命を吹き込んだ、カボチャのジャックです。丸い大きい頭、おバカさんで無防備なところ、チペタリウスをママと慕っているところ、誰にでもなついちゃうところ、カタコトなところ、アタマをネズミに齧られても葉っぱが生えてきて再生するところ、もうすべてがサイコーでめちゃくちゃかわいいです。

この作品を読んでから、かずはしさんのファンになってしまい、結構いろいろ読みました。またそのうち紹介させていただきたいとおもいます。

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