箱庭遊戯

『箱庭遊戯』は田中文さんの作品。線の細い少年少女が登場します。じっとりとした粘度の高そうな田舎の空気。以前少年が行方不明となっています。

淳真は6年ぶりに地元を訪れた真理に出会います。真理は行方不明になった真人の妹。真理が街に現れたときから、真人が行方不明になる直前まで一緒にいたメンバーたちが不慮の死を遂げ始めます。

ここから先はネタバレなのでご注意ください。

箱庭遊戯 田中文 集英社

動揺する仲間たちの中でただひとり冷静な光哉。実は光哉は、あの日行方不明になったのは真人ではなく真理だと知っていました。真人がいじめられていることを疑った真理は真人のふりをして遊びに参加し、木にくくりつけて見捨てられた後、光哉に殺されていたのでした。

真理や真人だけでなく、おさななじみは全員自分のものだとうそぶく光哉。真理となって光哉に近づく真人。その真人の命も光哉は奪うのでした。自分の命も真人にとられながら。

淳真だけがすべてを知るものとして選ばれて、何が起こったかを説明するメッセージを受け取るのでした。

少年少女の姿はか細く繊細で、子どもたちだけの秘密の中に光哉だけの秘密も入れ子になっていて、復讐のためにふたたび真理としてこの街を訪れた真人の張りつめた気持ちも(もちろん読者が真理が真人であることを知るのも終盤なのですが)、いじめの加害者の少女がプールのシャワールームに子供の遺体の幽霊をみるところも、重苦しい空気に支配されています。真理と淳真が話をするシーンだけが年相応の明るい雰囲気に包まれいますが、実際は淳真だけは真理の殺害に関与していないことを真人が知っているからそんな雰囲気になっていたのでした。

完全に壊れているのは光哉のみで、ほかの子どもたちは、木にくくりつけられて泣いている真人(真理)の姿しか見ていません。それでも死んだ子供に誘導されて死への一線を超えてしまうのは、真人の復讐ではなく、真人の思いに反応した真理の怨念なのかな、と私は思います。が、一方で、真理は兄思いで正義感が強くて実行派だったことを考えると、殺されたあとに思いを残して復讐を遂げるのは真理のスタイルではない気もします。

真人は蝶や昆虫の最も美しい姿を自分のものにするために標本にしていました。その行為と、好きな友達を殺して自分のものにしたいという光哉の気持ちは呼応しているようです。誰も大人になんてさせない。いまの自分が好きな状態のまま箱庭の中にみんな留まらせる。狂気はメンバーの中で閉じて、淳真は常にその外にいる。

普段読んでいるのとはまた違う狂気に触れてクラクラしました。スミナガシはその華麗な姿に反して花よりも動物の死骸や糞尿にあつまるらしく、スミナガシが終始出現するところもなんともいえない重く暗い空気を醸し出していました。

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箱庭遊戯 上

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[著者]田中文

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