『抑死者』はあららぎ菜名さんの作品。どういう意味なんだろう?というタイトルと表紙のキャラクターに惹かれて読んでみました。
表紙から期待した印象にぴったりの、持っている特殊能力によって偏見の目にもさらされながら飄々としたキャラクターがとっても気に入りました。何故か歯のかみ合わせがギザギザに描かれているところも好きです。
ここから先はネタバレなのでご注意下さい。
抑死者とは文字通り死を抑制する者。増加する一方の自殺者に対応するためにアサインされた人々ですが、アサインされるには理由があって、彼らは死願者と呼ばれる自殺志願者を嗅ぎ分ける能力があるのです。
夜道を歩いていてふと死願者の匂いを感じると、その人の居場所を的確に感知し、窓を破ってでも部屋の中に侵入します。抑死者が死願者に行うのは説得、懇願、場合によっては力づく。全力で死ぬ行為を止めに走ります。
死願者が自分でそれとはっきり意識してなくても抑死者はかすかな死の匂いを嗅ぎ分けます。終わりの見えない就活に疲れ果てた大学生、亡くなった妹の歌を発表して有名になり自分自身の作品を発表できないミュージシャン。抑死者同士にもネットワークがあって、時に力を合わせて死願者たちを助けます。
タイトルには『抑死者1』とありますが、2021年10月1日時点では続編がでていないようです。
作者のあららぎさんのあとがきを読むとこれが卒業制作だったそうです。誰かの支えになれれば、と書いていらっしゃるとおり、発表されているのは死願者がもう死を考えなくてすむハッピーなストーリーです。その分、抑死者側にはこれから先、いろんな葛藤がでてきそうなところでお話が終わっているのでちょっと残念。抑死者それぞれのキャラクターもたってるし、変人と見られていることもよく伝わってくるし、結構大掛かりなお話に化けそうな気がします。
それと、1巻で紹介される死願者たちは、本当は死にたくない人たちなので、抑死者が「力づくで止め」た死願者がそれでも死にたがる時、抑死者がどうするのかを見てみたいです。もちろん、死願者がその願望から抜け出てハッピーになれるお話として読みたいです。
いろんなシチュエーションに合わせた深いお話にするためには、あららぎさんがこれからどんな体験をするか、どんな創作物と出会っていくかにかかっているような気がしますが、とにかく1巻にでてくる抑死者たちが魅力的なので、彼らの持ち味を消さないで、いい作品を描いていただきたいです。いま1巻でとまってるけど、いつか続きを描いてもらえたら嬉しいな。
漫画家さんも、時が経つと描きたいものが変わってくると思うので、あららぎさんも今後抑死者を描かれえるとはかぎりませんが、ユニークな設定とまだ回収されていない伏線を見ても、まだまだこれから面白い作品を描いて下さる作者さんとして期待しています!