『私の夫は冷凍庫に眠っている』は原作 八月美咲さん、漫画 高良百さんの作品です。祭りの夜夫の亮を殺して倉庫の業務用冷凍庫に入れた夏奈。ところが翌日いつものように亮が現れます。
混乱する夏奈ですが、亮は何ごともなかったかのように振る舞います。夏奈が冷凍庫をチェックすると亮の遺体はちゃんとそこにあります。わけがわかりません。
ここから先はネタバレなのでご注意下さい。
亮はそれまでと打って変わって優しくなりますが、そんな亮にさらに恐怖をつのらせる夏奈。夏奈は亮の死体を料理して亮に食べさせることを思いつきます。毎日の弁当に亮の死体をつかった挽肉料理をいれる夏奈。空の弁当箱を持ち帰る亮。混乱し続ける夏奈。
ある日同僚の蒲田を夏奈に紹介する亮。夏奈の弁当は蒲田が食べていたことがわかります。
困惑する夏奈に、亮は、自分は亮ではない、双子の奏だと告白します。夏奈は亮と奏にずっと騙されていたのです。優しいのが奏。DVを振るっていたのが亮。二人は無戸籍児童として育ち、夏奈との婚姻届も出していないのでした。奏は夏奈が首を締めた亮が息を吹き返したところで亮にトドメをさした、だから亮を殺したのは夏奈ではなく自分だ、と言います。
もうDVを振るわれることもないと安心して奏と暮らす夏奈は妊娠します。戸籍をとって結婚しようと言う奏。戸籍をとるのは難しいが結婚はできるとのアドバイスを得て二人は結婚します。
亮と奏が双子であることに気づいてた女性が周囲に二人いました。隣人と夏奈の母です。隣人は奏に「亮くん」と話しかけます。奏は本当に奏なのか?殺したのは本当に亮なのか?夏奈はまた混乱します。
時が経ち、夏奈は母の家で赤ちゃんを育てています。奏の姿はありません。子供は双子です。夏奈は「双子は一緒にいないとね」とつぶやきます。冷凍庫のアップでお話は終わります。
実はこのお話、ファンタジー系もしくはオカルト系のサスペンスだと勘違いして読んでいました。だから上巻を読んだときには死んだ亮が人格も変わったかのように現れている、しかも冷凍庫にはその亮が横たわっている。いったいどういうことなんだろうと、めちゃくちゃ興味がわきました!しかもお隣さんはなにやら知っているらしい素振り。冷凍庫の謎の肉を食べたという人物も出現。これはどんなオカルトで、いったいいつDVの亮が本性をあらわすのだろうかと怯えながらも惹きつけられて読みました。
ところが。下巻になると、なーんと亮と奏、双子が夏奈を騙して一緒に暮らしていたというではありませんか。まさか答えがそんな現実的(でもないか)だとは思っていなかったので大ショックでした。
そこがショック過ぎたので、いい人でもしかしたら運命の人かもと夏奈が誤解して感情移入する蒲田が、実は夏奈の話を全く信じていなかったことも、実は殺人犯なところも、人を見る目がありそうな隣人が奏と亮を取り違えて覚えているという奏のあやしげな説明も、母が「どうして誠実なほうを選ばなかったの」と質問してくるところも、あんまりすんなりとは頭に入ってきませんでした。
奏を名乗る奏が本当に奏なのか、誠実なのは奏なのか亮なのか、DV夫は亮なのか奏なのか。そんなところもサスペンスなはずなのに、私の頭の中で響くのは「双子って。別の人格とかじゃなくて別の人物って。一緒に暮らしてて気づかないって。しかも隣人は気づいてるって。さらに言えば無戸籍だから行方不明になっても差し支えないっていったい…」というモヤモヤ。
ショックのあまり読みながら抜け殻のようになってしまいました。
今読み返すと、奏を名乗る、奏だか亮だかわからない青年を夏奈が殺していることを示唆する怖いエンディングなのですが、最初に読んだ時は完全に「オカルトでもファンタジーでもない」ことがひたすらショックで、ラストを覚えていない始末でした。
考えてみたらオカルトにするより現実のほうがずっと怖いのですけれどね。
夏奈には友人もいないようで、モブとしての人物はでてきますが、夏奈と普通に会話するのは夫のほかには蒲田、隣人、母、弁護士だけ。亮と奏が二人で共有するパートナーとして夏奈を選んだのは納得します。夏奈は亮と奏が別人格だと気づきもしないほど夫に対して関心が薄いし、そもそも他人への関心がゼロですから。それはいいとして、なぜ亮と奏は妻を共有しようと思ったのでしょうか。無戸籍なことと妻を共有することの間には大きな隔たりがあります。
淡々と進む、でもとても雰囲気のある惹き込まれる作風だったので、こうして感想を書くまでは気になりませんでしたが、よく考えると読者には作品として成り立つ必要最低限の情報しか提示されない物語でもありました。
面白いとかそうでもないとか考える前に、自分が勝手にオカルトものだと思い込んでしまったために、ストーリー展開に打ちのめされてしまった作品でした。