外海良基さん作の『JUDGE』。被りものをつけた9人の姿がインパクトのある表紙です。
ヒロは幼なじみの光に恋心を抱いていますが、光はヒロの兄の敦也と付き合い始めたばかり。ラブラブを隠そうともしない二人を見ていて、ヒロは逆に決意します。光に自分のキモチをぶつけよう、ダメでもいいから。ヒロは兄に「光からデートの待ち合わせ時間を1時間遅らせたいと連絡がはいった」と嘘をつきます。その1時間をつかって光に本心をうちあけようというのです。
ここから先はネタバレなのでご注意下さい。
時間に遅れたヒロが見たものはケータイを握りただ呆然と涙を流す光の姿でした。待ち合わせ時間が遅くなったことでギリギリまでバイトに勤しんでいた敦也が交通事故で死んだのです。
ヒロは目をさまします。キグルミの頭だけ被せられています。部屋を出ていくと他にもキグルミを被った人物が7人。そしてキグルミを脱いで息絶えている人が一人いました。
そこからは部屋に置かれたぬいぐるみから流れてくる音声に従って、ジャッジが始まります。8人はまずキグルミを脱ぐようにうながされ、一定時間ごとに、自分より罪が重いと思われる者に投票しろ、その者は命を奪われる、というデスゲームが始まります。なんとか全員で生き残る方法を探すヒロでしたが、そんなヒロをあざ笑うかのようにジャッジの度に誰かが死にます。駆け引きをする者、脅迫をする者が現れますが、とにかく一人ずつ死に、そのたびに家のドアがひとつ開きます。
あるとき、自分たち以外に殺された死骸を見たメンバーたちのパニックは高まります。そして、この館には最初いた9人のメンバーのそれぞれ関係者が捕らえられていて、こちらのジャッジが始まると同時に、自分とペアになる人間にキグルミが被せられていたのでした。そしてこちらで誰かが死ぬと向こうでもペアに相当する誰かが死んでいたのでした。
ヒロのペアは光。そしてこのデスゲームはヒロと光が仕掛けたもので、他のメンバーは敦也のひき逃げ事件の裁判に関わっていた人々だったことがわかります。ひき逃げ犯は金の力にモノを言わせて陪審員や裁判官を買収し、執行猶予つきの非常に軽い刑を得ていたのでした。
光とヒロは彼らに復讐するためにこんなデスゲームを仕組んだのです。でも、それで終わりではありませんでした。光はヒロが敦也にウソを言って敦也のバイト時間を延ばし、それが敦也の死を招いたことを知っていたのです。光はヒロの命を奪って本懐を遂げました。
キグルミが出てくるのはペアリングをはっきりさせるためみたいでしたが、ところどころ壊れたキグルミの頭はミステリアスな雰囲気を作品にあたえていて面白かったです。
そして、ヒロが敦也の事故死のきっかけを作ったのは明らかだったので、最後にヒロが犠牲を払うのは至極当然のことに思えました。というよりもむしろ、ヒロが光と同じく首謀者でいられること自体にちょっと違和感ありました。ヒロは自分の勝手な思いのために兄を死ぬ場所に送り込んでしまったのに、そのことに対する罪の意識が薄いように思えました。敦也の死を考えたら自分こそ最も罪深い、と自分にジャッジを下してもおかしくないストーリーだと思ってたのですが…ここらへん、外海さんはどのぐらい計算して描いていらっしゃるのでしょうね?どんでん返しと見るか、人間の感情の物語として見るか、どちらかによって受け止め方はだいぶ変わりそうです。
とかなんとか言いながら、読んでいる間は、ヒロが誰も死なせないと最大限努力する一方で、他の人を陥れて生き残ろうとする人たちの動きも面白くて、全6巻、ワクワクしながらあっという間に読み終わってしまいました。
残念なのは、ヒロも首謀者の一人だとわかって読み返したときに納得できるような動きをヒロがしてたら、何度も何度も読み返すことのできる作品になっていたんじゃないかというところです。今のままだと、少なくとも私にはヒロは本当にみんなで助かろうとしている人に見えてしまうので、ラストを知ってから読み返す喜びにはちょっと欠けます。
外海さんはこの作品の他にも独特のデスゲームを描いていて、私にとってはどれも魅力的です。キャラクターの顔も好きです。この作品では、無邪気に恋愛に夢中になっている光と、ヒロを許さない光の表情の変化がとってもよかったと思います。キグルミの顔はどれも秀逸。何故かキグルミが新品じゃないところもなんか好きです。
何度も繰り返して読んだりはしないけど、ストーリーを忘れちゃった頃にまた読みたくなる作品でした。もしかしたら外海さんの別の作品の感想も後日書くかもしれません。