『髑髏は闇夜に動き出す』はTETSUOさんの作品です。表紙の老人の暗い目と、髑髏、闇という言葉が重い物語を感じさせます。
銀三は89歳。ガンが見つかり余命宣告をされますが、独りで生きてきた銀三はただ人生はあっけないものだと感じます。目の前に現れる黒い影にも感慨はありません。
この先はネタバレなのでご注意下さい。
そんな銀三の生活が変わったのは隣に6歳の少女をふくむ一家が引っ越してきてから。ひょんなことから親しい交流が始まり、銀三は少女と遊びながら妊娠中の隣の奥さんの子供が生まれるのを心待ちにするようになります。
ある晩様子がおかしい隣家に入ると、家族3人は殺害されている最中。銀三は犯人が落としたスマホを頼りに、復讐を考えます。
スマホの持ち主を首尾よく拘束した銀三ですが、ホントに殺れんのかよとすごまれると手が震えます。そんなとき、6歳の少女に息があることを知った銀三は病院に少女を訪ねますが、結果、彼女の死を看取ることになります。
人が変わった銀三。以前から現れていた黒い影はいまや銀三の姿になり、はっきりと復讐を言葉にします。拘束した青年を激しい拷問の末死なせた銀三はもうひとりの実行犯も狙います。路地で追い詰められた実行犯は大通りに飛び出し、トラックに轢かれて死にます。自分が息を止めたかったと悔いる銀三は、警察にもその行為が知られ、隣人殺害の疑いもかけられ始めます。
隣人殺害の事情は、空き家に奪った金を隠していた犯人らが、住人が入ったことに焦って殺人までおかして回収したというものでした。刑事に追われながらも黒幕に会った銀三は刑事とともに黒幕に拉致されます。
手錠で倉庫に閉じ込められた銀三は自分の親指のつけ根を食いちぎって拘束を解き、刑事を逃します。そして殺しに来た黒幕らを尋常ではない迫力で殺して本懐を遂げます。
警察の調べによると銀三は少なくとも3日前には死んでいたはずだといいます。
最後は銀三が隣人親子と巡り合いほほえみ合うイメージで終わります。
わかりやすい復讐譚ではありますが、孤独な老人が隣人とのささやかでも愛のあふれるふれあいによって自分の孤独に気づくとともに、それが癒やされる様がシンプルに、でも無理なく描かれ、そのことがとても心を打つので、復讐する銀三に無理なく感情移入してしまうお話でした。銀三のキモチについていけないと、人を殺す覚悟も悲しみも葛藤もわからない作品になってしまって、ただただ殺人する話になってしまうので、巧みなお話だと思いました。
気後れしてしまいそうなところで、たった6歳のマコちゃんの命が失われてしまって、銀三の心が改めて奮い立つところも、悲しいのですが、よく描かれていたと思います。
89歳で、余命5か月の銀三が拷問したり路上で人を襲ったりするあたりも、ホームセンターで買える武器で対応していて自然に描かれていました。まあ実際にできるかどうかわかりませんが…そういえば、釘を打つ機械を人に使うのは『バイオレンスアクション』(まんが 浅井蓮次さん、原作 沢田新さん)でもやってました。
最後は、3日前には死んでいたはずの銀三が黒い影と同化して黒幕たちを制裁する、ある意味ファンタジーになっていましたが、冒頭でもでてきた「ワシの眼をみろ。何が見える」の答え、死の恐怖に怯えた黒幕自身の顔が見えるのが恐ろしかったです。
最後は銀三がマコとその両親と幸せにほほえみ合うシーンなので救われますが、それでもやっぱり、血にまみれた銀三の手で、無垢なマコの手をとってよいのだろうか、というとまどいも覚えました。
このシリーズは、全く違うお話で、2021年10月現在、フォースシーズンまででているようですし、Renta!でもレビュー数が多いので人気のある作品のようです。悲惨で凄惨な話ですが、やっぱり人を愛する強烈な想いがベースになっているところが人気の秘密なのではないでしょうか。作者のTETSUOさんの他の作品も気になります。