『猟奇伝説アルカード』は稲垣みさおさんの作品です。アルカードが体の一部と引き換えに願いを叶えてくれるという契約ものです。
しかし、いつも幸せになるとは限りません。一時的に願いは叶ってもその先に何がまちうけるのか。その顛末を綴った一話完結型の物語です。
ここから先はネタバレなのでご注意下さい。
アルカードはいつも体のどこかしらが不調です。相談所を開設していて、そこに訪れる者の願い事をきくのは、忠実な召使いのレンフィールド。会話を聞いているアルカードが、願いを叶えるかわりに顔の皮膚が欲しいといえばレンフィールドが依頼人の顔の皮膚を剥ぎ取り、アルカードに捧げます。
アルカードのところには時々ミーナという少女が訪ねてきます。おやつに人の魂がほしいというのです。ミーナは魂を食べることで若返り、常に少女の姿を保っています。そんなミーナが本当に欲しがっているのはアルカードの魂。そのためにミーナはいろんな悪さをします。
お話の一部を紹介すると、たとえば、婚約者の余命が短いを知った女性は彼の命を救うことを願い、顔の皮膚を献上します。願いはかなって彼は元気になりますが、皮膚を失って醜い顔に変貌した彼女を嫌って美人の女性に乗り換え、彼女は捨てられてしまいます。基本的に、願いをかなえたことで人々は不幸になりますが、時にはアルカードのきまぐれでささいな幸せを得たりします。
契約ものは少女漫画には多い気がします。私が知らないだけで少年漫画にもあるのかもしれません。そういう中で私がこの作品が好きな理由はやはり稲垣さんの絵にあると思います。線が太くてちょっと古めにも思える稲垣さんの絵は個性があって魅力的です。まずは表紙の、青ざめたどころか真っ青なアルカードの顔と手にインパクトがあります。表紙は決してイケメンではないのですが、読んでいるとアルカードはイケメンにしか思えなくなります。依頼人たちは正直モブっぽい気がしますが、アルカード、レンフィールド、ミーナという魅力的な人物たちのせいで、各話の主人公たちの人となりはあまり気にならず、人間の愚かさ、身勝手さ、かわいさ、切なさ、ピュアさ、悪賢さ、そんなものがダイレクトに伝わってきて引き立ちます。
アルカードがいつも弱っていて、アルカードが欲しがる代償が、観念的なものではなく、ダイレクトにそのときアルカードが必要としているものだというところも魅力です。他人の体を寄せ集めた体だということが、よく見ればわかってしまうようなところもおもしろい設定です。ひどいときは顔から下の体を全部のっとったりします。グロな表現はそれほどありませんが、苦手な方には難しいかもしれません。
最終話では、ミーナが何故いつも少女でいたがるのか、レンフィールドは何故いつも忠実なのかも明かされます。レンフィールドの献身は物語には必須だし、アルカードが何故自分の魂を付け狙うミーナに寛大なのかもここでわかります。アルカードの心はやっぱり人間とは違う動きをしているようです。
表紙に惹かれて読んだ稲垣さんの作品ですが、絵の太い線の勢いが気に入ってすっかりお気に入りの作家さんのひとりになりました。