ソフィー・ローズと荊棘の人形師

エトオミユキさんの『ソフィー・ローズと荊棘の人形師』を読みました。約束を守ることを条件に人形に願いを叶えてもらう、でも約束を破ると体の一部を奪われてしまうお話です。

いわゆる契約ものです。場違いで時代錯誤な英国美男子アデルが人形師として原宿に館を構えていますが、そこには用事がなければたどり着けません。

ここから先はネタバレなのでご注意下さい。

ソフィー・ローズと荊棘の人形師 エトオミユキ スクエア・エニックス

アデルの家系は人形師甲最高峰ローズ家です。亡くなった妹ソフィーを型どった人形を生きた人間にしてソフィーを取り戻すため、日本に来てこんなことをしています。ソフィーは日本人後妻と父の娘なのでソフィーの体を形づくるのには日本がちょうどいいのです。

主人公の凛は第2話ででてきます。親友のななせに連れられて入ったアデルの店で、アデルに見初められます。凛のまなざしがソフィーにそっくりだということで、アデルは凛の目を付け狙います。ななせは人形との約束を破って死に、凛はアデルに絶対に自分の目を渡さないと誓います。

ほかの人形師や、人形供養の神社の息子などが入り乱れる中、実はアデルは400年前にローズ家が封じた魔女ソフォラに操られていて、わずかに残ったソフィーの意識はアデルをソフォラから救おうとしていることがわかります。最後には凛はソフィーの力も使ってアデルを正気に戻しソフォラの本当の願い、槐と一緒にいたいという思いを引き出し、ソフォラを再び封じます。

表紙に惹かれて読みました。表紙はノーブルさのあるアデルとレオと目を閉じたソフィーで落ち着いた臙脂と緑の色合いで、お話の内容の想像もつきませんでした。読むと絵に既視感があり、エトオミユキとは『地獄少女』を描いた永遠幸のことか!と気づきました。目がこぼれ落ちそうな閻魔あいちゃんと凛はかなり印象が違いますが、気づいてみれば紛れもなくエトオさんの絵です。アニメ版の地獄少女ファンのなかには、絵も内容もザ少女漫画な永遠さんの地獄少女受けつけない人もいるようですが、私は元々ザ少女漫画ファンの少女だったので、永遠さんの閻魔あいも大好きです。そんなわけで、この漫画も好感を持って読み始めました。

人形の顔が好みです。1話にでてくるリップを塗って欲しい人形も好きだけど、その後に続くパッチワークっぽい人形たちも大好きで、実際お店で売ってたら買ってしまいそうです。かなり日本人好みの人形に思えますが、うちにいるLiberty社の生地を使った英国製のカバのぬいぐるみに雰囲気がちょっと似てるので(だから好きなのかも)、これで英国風なのかもしれません。他の人形師の人形たちもでてくるし、そのあたりはエトオさんも多分こだわって描いていらっしゃるような気もします。

最初の話を読むとよくある契約ものような気もしますが、最初からソフィーの存在があってアデルがソフィーのためにからだを探していることがわかるので、極論言えばいつ始まっていつ終わってもいい契約ものの中では、契約の執行者に目的がはっきりしているという点で他のものとは異なります。第2話で凛という主人公がでてくるので、しっかりしたストーリーの線が見えてきます。そういう意味では、『デイモスの花嫁』にちょっとだけ通じるところがあるかもしれません、全然違いますが。

アデルは敵として現れますが、クライマックスでは敵ではなく共感できる仲間に変わります。その予感はなんとなく最初からのありました。妹への愛着という弱みをつかれてソフォラに操られていたアデルですが、操られていたことを理解すると素早くその態度を変化させます。その変わり身の速さ、というより柔軟さと、そもそもつけこまれてしまった弱さが、少女漫画のヒーローっぽさを際立たせます。凛が罪を憎んで人を憎まず、なのも少女漫画のヒロインらしい感じで好感が持てます。でもよく考えるとアデルは若い女性の顔半分の皮膚を剥ぎ取ったりとか、酷いことしてるんですよね。魔力で顔の皮を剥ぎ取られた女性はおそらく命は無事だろうけど、うまく皮膚移植はできるんだろうか、とか考えちゃいました。

レイ、エリアス、槐など、他の主要人物も少女漫画らしい魅力的な男性たちでした。誇り高い少年レイがエリアスの魔法で凛に惚れちゃうのもすごくかわいくてよかったです。エリアスが登場するお話では、人形の持ち主が想いを果たして、体を差し出すことなく幸せにアデルの魔法が消滅するのもよかったです。槐のことは完全な仲間だとしか思っていなかったので、実はソフォラと通じていて、封じられる彼女に寄り添うことを選んだのはびっくりしました。このストーリーの中で人形供養の神社の神主というのは完璧なヒーローだったので。まあ先を読みながら漫画を読むタイプの方にとっては予想の範囲内なのかもしれないのですが、私はびっくりしたし、おもしろかったです。

いままでたくさんの人を不幸にしてきたアデルですが、これからは約束を守ってもらって幸せに導くために人形をつくっていくのでしょうね。代償は何になるのでしょう?もう体の一部はいらないだろうけど、やっぱりなにか重大な代償はあるのだろうと思います。そしてこのお話の中ではわりとかわいい少年になっていたレイは、元に戻って呪い、というより殺しの人形をこれからもつくって依頼人の敵を死なせていくのかなー、と思います。そういうブラックさが残るところがエトオさんらしくて、満足度の高い漫画でした。

にほんブログ村 漫画ブログ 漫画感想へ
にほんブログ村

PVアクセスランキング にほんブログ村


漫画・コミックランキング


レビューランキング

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です