This Man その顔を見た者には死を

『This Man その顔を見た者には死を』は原作 花林ソラさん、漫画 恵広史さんの作品です。夢に現れる男という都市伝説と殺人事件を組み合わせたお話です。

似顔絵捜査員の斗は彼女の玲愛の依頼で明里母娘が見たという不審な男の似顔絵を描きます。すると明里母はその男に殺され、娘の星子は犯人が「この顔を見たら死ぬ」とつぶやいているのを聞いてしまいます。

斗が似顔絵を幼馴染たちに見せると、その絵は米国の都市伝説で多数のお互いに関係ない人の夢に出てくる顔だと指摘されます。

ここから先はネタバレなのでご注意下さい。

This Man その顔を見た者には死を 原作 花林ソラ 漫画 恵広史 講談社

斗も命を狙われ、さらにワンチューバーのKODAMAに明里母を殺し星子を誘拐した犯人とされ、懸賞金をつけて追われることになります。斗は先輩刑事の助けを借りて逃げますが、その過程で友人を含む多数の人間がThis manに襲われて命を落とします。実は先輩刑事はKODAMAと手を組んで斗を陥れている犯人でした。KODAMAは幼い頃に失踪した斗の双子の兄、剣の精神が壊れているのをいいことにThis manの顔に作り変え、殺人の技を教え込み、自分がワンチューバーとして注目を得るための道具として使っていたのでした。

真相に気づいて剣と対面して自分を思い出させようとする斗に対し、KODAMAは剣もろとも斗を爆死させて殺人劇に幕を下ろします。と思いきや、剣は最期の瞬間に自分が本当は何者か、相対しているのが愉しむために殺す相手ではなく守りたい弟であることを理解し、とっさに斗を守ります。

斗は兄の人生を代わりにいきなければいけないという呪縛から開放され、画家としての人生を歩み始めるのでそた。

めちゃくちゃ端折ってあらすじを紹介しましたが、これは「注目さえ集めればいい」というワンチューバーと巻き込まれた斗の戦い、そして幼い頃に失った双子の兄を取り戻すための斗の戦い、そして人吉七人衆という幼馴染たちの絆の物語です。そこにThis manの都市伝説に「その姿を見たら死ぬ」というホラーなエッセンスが組み合わされた作品です。

This manは本来ホラーではなく不思議な話なのですが、1巻の表紙にその風貌が使われ、怖さを感じさせます。なので、私も途中まではThis manの顔も存在も怖かったです。が。途中でThis manの顔をしたてるてる坊主人形が出てきたところで「ありゃ。This manの風貌ってばかわいいかも」と思ってしまいます。しかも巻末の4コマ漫画では、This manが完全にネタにされています。そのため、This manの怖さは暴落。なんだか親しみやすいものになってしまって、ホラーの真髄も、そんな姿にされてしまった剣の悲哀も半減してしまったのでした。そうなったのは無類の人形好きの私に限ったことかもしれませんが…それまでは1巻の表紙も怖かったし、This manの登場シーンも怖かったので…ホラーやオカルトの巻末にお遊びのページはあんまり入れないほうがよいと思いました。

お話自体は自己中で歪んだワンチューバ、それに踊らされえる匿名の人々、懸賞金目当てで平気で人を拉致しようとし暴力に訴える人々、KODAMAと繋がっている仲間の中の裏切り者、ワンチューバの影響力目当てに刑事の魂も後輩も売ってしまう刑事、親との関係がうまく作れなかったことが原因で妻を愛せず死に至らしめてしまう青年など、多彩な人々の行動が様々なドラマを生み出し、盛りだくさんな世界が作り出され展開されていました。

その中でずっと、斗のポジティブなスタンスが魅力だったので、地味な方が残ったとか、死んだのが剣ではなく斗だったらよかったのにとか、ネガティブなセリフが出てきても嫌な気持ちになったり滅入ったりすることなく、星子を守ってThis manとそれを操る人物を警察官として追い、自白させ償わせようとする斗の一貫した姿は小気味のよいものでした。

剣は完全に壊れていて、たくさんの人を楽しみながら殺めていたので、死ぬしかなかったとは思いますが、そんな風にされてしまった人生があまりにもかわいそうで涙がでます。最期に剣としての意識を取り戻して斗をかばったのは、彼にとって幸せだったのでしょうか?This manとしてたくさんの人を殺めた記憶を、死の直前の彼はどう受け止めたのでしょう?

そしてKODAMAも、伝説になることを望み、人ひとりを廃人にして殺人鬼に仕立て、自分も願い通りブレイクしても、それは一時のことで長い裁判のフェーズに入れば人々に顧みられなくなり、おそらくあとは判決のときぐらいしか人々の話題に上ることもないだろう、と虚しい気持ちでいっぱいになります。

とっても面白かったのですが…やっぱり話の肝のThis manをギャグにしちゃうのは本編が終わるまで待って欲しかった、最後まで不気味な存在にしておいて欲しかったと、強く願ってしまうのでした。

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This Man その顔を見た者には死を 1巻

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This Man その顔を見た者には死を 1巻

[著]恵広史 : 花林ソラ

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