『色の理由』はすずはら秋さんの作品です。大学4回生の佐野みつほが中学1年生の青井碧(あおい あおい)から手紙を受け取る話です。
5月の教育実習から4カ月も経って、とりたてて親しかったわけでもない私に何故手紙を?とみつほはいぶかしく思います。
ここから先はネタバレなのでご注意下さい。
内容は最近友人との間で交わした会話、起こったできごと、思ったことなどです。一見日記のような手紙をもらってみつほのとまどいは深くなりますが、みつほも返事を書き、何故自分に手紙を送ったのか尋ねます。しかし碧はそれにまともには答えず、また日記のような手紙を送って来ます。
手紙はいつも色をテーマにしています。4通目を数えたとき、みつほは気づきます。碧はみつほが好きなのだ、だから自分のことを知って欲しくて手紙を書いたのだと。
それに応えて、みつほも最近自分が抱えているモヤモヤを、率直に、色をテーマにして書き、碧に伝えます。碧はそれを読んで自分の生活を送る中で、自分のなかに芽生えていた想いに気づき、それをまた手紙でみつほに伝えます。
すずはら秋さんは初めて読む漫画家さんでした。表紙の少女のカラフルな目の色と素直そうな表情に惹かれて試し読みを読み、いい雰囲気だと思って読み進めました。主人公の碧ちゃんは中学1年生。小学校を卒業してまだそんなに経っていない、制服だから中学生だとわかるけれど、私服だったら小学生とまちがえちゃうかもしれない、限りなく子供に近い少女です。碧は落ち着いたおだやかで素直な性格で、ものごとを悪く捉えたりひねくれたりいじけたりつっぱったりすることもない自然体の女の子です。
同級生たちもとても自然です。カーストもピラミッドもなく、派閥が描かれることもなく、その時々の流れで親密な会話を持ったり、一緒にすごしたりします。
私がいままでRenta!で読んできた学生さんたちとはだいぶ違って、牧歌的で瑞々しくて平和で、でも今まで過ごしてきた子供時代とは違った複雑な人間関係を作り始めた少年少女がこのお話には登場します。その世界は私が実体験した中学1年生の時代と何ら変わることがなく、馴染みのある、でも忘れてしまっていた「子供」から「学生」に変わって社会がちょっと変わったような気がする瑞々しい時代を思い出させてくれました。2018年の作品ですが、時代が変わっても中学1年生に独特の感性って変わらずに存在するんだ、きっと私のお父さんお母さんの時代も、私も、今の若い方たちも、同じような感覚はあるんだ、と思わせてもらえて、つかの間とても新鮮な気持ちになれました。
碧が担任の先生にみつほの住所を教えてもらって手紙を書いたというのは、みつほも作品の中で言っているとおり、個人情報管理はどうなってるんだ、と思うのであまり現実的ではありませんが、中学1年生にとって大学4回生は大人で、でも教育実習生というまだ社会人ではない卵の状態を見せられているので、完全な大人ではなくて親近感を持ってしまう、という状態も説得力があって、碧が手紙を書きたくなった理由は、難なく共感できました。
1話のオセロちゃんが私にとっては特に峻烈でした。オセロちゃんが自分で自分を殺して真っ赤な血を流して倒れているという心象風景は、しょっぱなから「これは比喩だな」と思わせる表現ではありましたが、それでも衝撃的で、「そのことを知っている人間は私しかいません」という事実もショッキングでした。みつほは冷静に、名前を殺すほどの情熱を秘めていたのか、と受け止めましたが、碧がその出来事を周囲に話しはしないけれども、胸に秘めておくことはできなくて「教育実習にきてた先生」に打ち明けてしまうのも、私にはゾワゾワするような現実味のある話に思えて、惹きつけられてしまいました。同時に、秘密は誰かに話してしまったらもう誰に対しても秘密にはしておけないんだよ、碧ちゃん、という感想ももちましたが、それは話の本筋とは関係はありません。
みつほが書いた手紙も含めて色をキーにして話が語られる形式もとっても気に入りました。最後に碧が出した結論も素敵でした。
落ち着いていて、おだやかで、素直な物語。絵も間合いも含めてこの作品はとっても私好みのものでした。すずはらさんの他の作品も読みたいのですが、Renta!では今のところこの作品しかないみたいで残念です。