『無能なナナ』は、原作 ルースボーイさん、作画 古屋庵さんの作品です。特殊能力を持つ少年少女が集められた孤島。彼らはおぞましい「人類の敵」から人類を守るために、能力を評価されて集められ、教育を受けています。
そんな中でクラスメイトたちから『無能』と呼ばれ、軽くいじめられているのが、中島ナナオです。
ここから先はネタバレしていますのでご注意下さい。15巻で完結したこの作品、第1話でショッキングなどんでん返しがあります。このことに触れないと感想を言うこともできず、完全ネタバレで説明しちゃっています。

その日、クラスに2人の転校生がきます。クールなキョウヤくん、そしてかわいくておしゃべりな柊ナナちゃんです。クラスへの最初の自己紹介では自分の特殊能力を説明するのが通例ですが、キョウヤは説明を拒否します。一方、ナナは「わたし、人の心が読めます。ちょっと空気は読めません」と、明るく笑います。
ナナオはその笑顔にキュンとする程度で、特に2人に特に関心を持ちません。でも、ナナはなぜか最初から、むやみやたらとナナオにまとわりついてきます。優しいナナオはとまどいつつも対応しますが、自称どおり空気を読まないナナの発言にイラっともします。
そんな中で突然勃発する、クラスのリーダー争い。ひょんなことから争いに参加することになったナナオは能力を発揮してその場を制します。大した能力じゃないと謙遜するナナオをナナが「すごい能力じゃないですか!」と褒め称え、ナナオは晴れて「クラスのリーダー」に認定されます。
改めてナナに強いシンパシーを覚えたナナオは、ふたりで海を見下ろせる崖に行き、そこでナナに自分の心を読み取るように伝え、心のなかで「これからもよろしくね」と語りかけます。
ところが(盛大なネタバレいきます)
ナナはそんなナナオをいきなり崖下に突き落とします。そしてナナオの考えていることは「なぜ僕は今からこの子に殺されなければならないか、だろ」と冷たく言い切ります。
ナナが、本当の「人類の敵」はお前ら能力者に他ならない、と決めつけて「人類のために死んで下さい」と言い切った瞬間、ナナオの手はしがみついていたロープから離れてしまいす。ナナオは絶望の中、海に落下していきます。
このあとしばらく、ナナはクラスメイトの能力者たちをひとりずつ暗殺していきます。心を読む能力などないナナが、能力者たちをどう出し抜くか、ナナを連続殺人の犯人だと疑うキョウヤをどうかわすかが、物語の焦点となります。
しかし、あることがきっかけで、ナナは「人類のために能力者を抹殺する」という自分のミッションに違和感を覚えるようになります。そして、、、
混乱の後、彼らは島から首都圏に送られます。一見丁重に扱われる彼らですが、実は政治家に陥れられ、社会の悪役のレッテルを貼られてしまいます。そして、ナナは国民に敵対する能力者たちのリーダーとして逮捕され、再教育を受けます。
さらに3年後。一転して能力者たちは都心の隔離エリアに集められ、政府や軍から迫害されています。ナナは彼らを救うための戦いを始めます。ずっとナナを疑っていたキョウヤも、学校で知り合い一度はナナを拒否したクラスメイトたちも、新しくできた仲間たちも、ナナを解放のリーダーとして支えます。

かわいいナナと「無能くん」ナナオに惹きつけられる
この作品を読みたいと駆り立てられる最初の魅力は可愛らしいナナのピンクに白取りのツインテールとピンクの制服、そしてニーハイソックスです。そして、気弱なナナオのキュートなルックスも魅力です。能力を評価されて意気揚々と島に送り込まれたのに「無能くん」とレッテルを貼られてクラスで小バカにされている(いじめられているというよりは、イジられている、と言ってもいいレベルかもしれませんが)、ナナオの心情が丁寧に描かれていて、劣等生としての親近感がわきます。特に、回想で、ずっと厳しくて期待が高すぎて冷ややかな父が、「能力者」に選ばれた時だけ喜んでくれるエピソードも胸に迫ります(私自身は成績はよくはなかったですが、いじめられたり親にないがしろにされた経験はありません、気が強かったし空気読めなかったから、いじめられかけてもまったく気づきませんでしたwww。それでもナナオに親近感を覚えられるのは、作品の力です)。
その状況で、やんわりと押し返しても、はっきりと拒絶してすら、無遠慮にずかずかと距離を詰めてくるナナちゃんのことは、ナナオと一緒に「なんなんだこの子は」と呆れます。でも、明るくしゃべってたのに急に「一方的に人の声が聞こえてきて、友達なんかひとりもできなかった」と自嘲するナナに、自身も孤独を抱えていたナナオが次第に心を許していくのも、自然に受け入れられます。
第1話で全部ひっくり返る衝撃
そう。心を許して当然の状況だったのに。ここから淡い恋愛が始まるんだと思ったのに。まさかそのほんの1秒後に崖に突き落とされちゃうなんて。それまでかわいこちゃんとしてぺちゃくちゃしゃべっていたナナの口調が殺害のシーンでいきなり硬派に変わるのもゾクゾクしました。古屋庵さんのかわいらしい絵柄とのギャップも完璧です。『無能なナナ』というタイトルが、そういう意味だったとは。主人公はナナオだとばっかり思っていたのに。
この1話は、衝撃すぎて何度も何度も読み返してしまいました。
殺人者のナナを応援してしまう不思議
その後、ナナが強い信念をもって能力者のクラスメイト達を殺していくエピソードは、相手がいやなヤツの時もあって、内容の凄惨さにかかわらず、ついついナナを応援してしまいます。そして「ちょっとまて、ナナがやってるのは殺人だよね?それをこんなに応援しちゃうのは何故???」と自分でも頭の上にクエスチョンが立っているのがわかるります。なのに、それでもキョウヤに追い詰められそうになってそのたびに危うく身をかわすナナを、ついつい、全力で応援してしまうのです。一方で、キョウヤはナナにとって脅威以外のなにものでもないにも関わらず、キョウヤのちょっととぼけたキャラにも魅かれてしまいます。「ナナちゃん、キョウヤさんに負けないで!」と思いつつも、「キョウヤさんが排除されたら絶対やだ!」とも思えるのが、この作品の魅力です。
ナナを変えていくミチルという存在
ナナ自身、自分のやっていることに疑念を持ち始めますが、その背中を決定的に押すのが、ミチルちゃんです。

ミチルちゃんは底抜けのいい子です。正体がわかってみれば天使です。でも、ストーリー上、ミチルちゃんの言動がナナに敵対しているように見えたり、ミチルちゃんの存在が利用されたりするシーンがあって、「もしかして敵?」と思わせられます。「いい子すぎて、うざいし、『ナナしゃん』と舌足らずに発音するのもあざとい」キャラだし、能力を発揮するときに「自分もしくは他人を舐める」という行為もちょっと気持ち悪いのですが、ストーリーが進んでいくと天使としか言いようがありません。ナナがいろいろ自分に言い訳しながら、ミチルに気持ちを寄せていく描写が見事です。
「ナナは人殺しなのに、どうして応援しちゃうんだろう」と思って読んでいたので、ナナが人殺しを続けている自分に疑問を持ち、そしてその行為をやめる決意をすることも、読み手である私のカタルシスにつながりました。
敵も味方も忘れられないキャラクターたち
島に突然現れる謎の存在である橘ジン、ヴィランの鶴岡、3年後になってからの超重要人物であるシズカをはじめ、キャラの描き分けも見事です。島の担任の先生も、能力者の教育をする無能力者で、特にキョウヤにオラつかれていつも散々な扱いをうけています。その雑な扱いと、常に雑な扱いをされていることに対する先生の感想とかそのときの見栄えとか、しっかり心に残ります。能力者の生徒たちは言わずもがなです。
再会したナナとナナオ――取り返せない罪と、それでも願う救い
またネタバレしますが、3年後にはナナオも復活しています。心をひらきかけたナナに「殺される」という仕打ちをうけたナナオが心を閉ざしているのはもちろんです。父親との確執も鶴岡に利用され、ナナオはより悲惨な状況に陥っています。ナナは、ナナオをそのような状況に追い込んでしまったのは他ならぬ自分自身だとよく知っています。自分の手で壊してしまったナナオの心に、少しでも安らぎを戻したい、そしてできれば自分たちの仲間になってほしい、とナナはもがきます。
ナナが前に進むために、みんなが幸せになるために、そして自分の罪への報いを受けるために、もがく姿に、感動しました。ナナが出会う取り返しのつかない不幸に、漫画を読みながら涙を流してしまうこともありました。鶴岡も単なるヴィランではなく、ナナと深い因縁のある相手であり、ナナに対して非常に複雑な思いを抱えた男であることが、徐々にわかります。それでも、鶴岡は最後までヴィランです。設定上はナナと和解してもおかしくないキャラでしたが、最後までヴィランという立場を貫いています。
仲間を排除していたナナが、仲間を信じるリーダーになるまで
他のあらゆるキャラも、魅力的です。ナナに殺されてしまう能力者には、とんでもないイカレた者もいましたが、クラスメイトの多くは、能力がある「普通の子」です。いえ、「普通の魅力的な子」です。冷徹に能力者の能力を見定めて「化け物どもめ」と見下し、自分の殺しの仕事のプライオリティを決めていたナナは、リーダーの座を引きずり降ろされる経験も経て、最後には本当に仲間を信頼するリーダーになります。仲間を信じることが、リーダーとしての最重大任務を達成するための鍵になります。
仲間を信じることの大切さを謳うマンガ作品は山ほどあります。少年漫画では、人気がありすぎるせいで連載を終了することができないケースがよく見られますが、私が読んでいない超人気の超長期連載でも、仲間の大切さがテーマになっているらしいことは、読んでいなくても知っています。それぐらい、仲間を信じることの大切さは普遍な理念です。『無能なナナ』でも、仲間を偽って近づいて排除すること、仲間に裏切られて傷つくことが描かれていて、そして、仲間を大切に思うこと、信じることの大切さが表現されています。私が泣いてしまったミチル、シズカのエピソードも、自分の命すらなげうって仲間を助けることの尊さを感じさせます。そして、最後の一番肝心なところで、ナナがとる行動が、仲間を信じるとはどういうことなのかを、はっきりとわからせてくれます。
別に、ナナのように振る舞いことが正解だとは思いません。リーダーは孤独なものであり、その孤独さを引き受けることこそがリーダーのリーダーたる所以である、というシーンも、きっとあると思います。でもこの作品では、ナナがそれまでから一歩進んでチームを信じることが、大きな問題に対する解決策となっています。15巻かけて描いてきた作品の、肝ともいえるそのシーンに向かって、あらゆるエピソードが綿密に紡がれていたのだと、そこで完全に腑に落ちました。
15巻を読み終えてわかる、緻密に組み上げられた物語
第1巻、第2巻あたりの、ルースボーイさんの巻末コメントを見ると、無能者のナナちゃんをいかに魅力的に見せて能力者との攻防を表現することに集中していると見せかけられていて、比較的気軽に作品を展開させているのではないかという印象を持ってしまったのですが、とんでもない。大団円に向けて本当に初期からしっかり伏線が組み込まれていて、能力者を私利私欲のために利用する大人たちの思惑と、全体がみえない中で自分なりの筋を通して目的を果たしたい子供たちのあがきが、ちゃんと計算されて構築されていました。
ナナオには、想像していた以上の厳しい未来が想定されています。ミチルちゃんは可能性を見せながらも静かに横たわったままです。永遠に失われた仲間もいます。ラストで、ナナは、まだまだ目の前によこたわっている大きな問題を解消できる「可能性もゼロではない」という不確かな可能性にかけて、さらに前に進みます。洗脳され騙されていたとはいえ、自身も大きな十字架を背負っていて、それを下すことは決して許されないと認識しているナナが、おだやかな気持ちで歩みを進める姿に心の底からエールを送って、ページを閉じました。

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