『終園地』は本田真吾さんの作品。久しぶりの家族ドライブ。行き先をナイショにしていたお父さんの健二ですが、迷子になってしまいます。たどり着いたのは遊園地らしき場所。バニーの顔の男性が案内人です。
入場もアトラクションもフリー。周囲の人々も訳がわからないようです戸惑っています。
ここから先はネタバレなのでご注意下さい。
[作]本田真吾
下の娘、凛はさっそくジェットコースターに並びますが、一つ前のジェットコースターに乗った人たちはみんな首が落ちます。逃げようとする人々は惨殺されます。ジェットコースターに強制的にのらされる凛。健二はバニーの言葉「真実の叫びをお聞かせ下さい」に反応し、ジェットコースターに乗る凛に「秘密を告白しろ」とアドバイスします。
13歳の凛は「私パパ活してるの」と叫び、一命をとりとめます。激しく動揺する健二と妻の美沙。しかし息をつく間もなく今度は長男の律がコーヒーカップに挑みます。律はギリギリまで耐えます。健二は「律は優等生だから秘密なんてない」と言いますが、美沙から「あなたは何も知らない。律は成績が悪い」となじられます。最後の瞬間、律は秘密を叫びます。律はアラフォーの英語教師と付き合っているのでした。
ここで食事がでます。食べれるはずがないと思いきや、意外にもおいしい肉に食は進みます。食べ終わると、それは先代のバニーの体だったことが明かされます。
次は美沙の番です。ゴーカートに乗った美沙も秘密を叫びます。律も凛も健二の子ではないのです。風采の上がらない健二を軽蔑している律は、健二が実の父でないことにむしろ喜びます。
そこに、ふたりの本当の父親、柊が現れます。イケメンで羽振りの良さそうな柊は健二の友人でもあります。柊は手際よく健二たちを抜け道に誘います。律はスマートな柊が自分の本当の親ではないかと、少々の期待を持ちます。
抜け道にいたはずが、実際には柊と健二が次の幽霊病院のアトラクションに参加することになります。襲われた健二は、律と凛が自分の子ではないことを知っていたと告白して逃げます。その直後、柊は健二を幽霊たちに渡すことで自分だけ逃げます。健二は子供たちと美沙が助かればそれでいい、と諦めます。
柊は、健二に「自分以外は誰も大切ではない、婚約者すら、社会的地位をあげるために利用しようと婚約しただけでどうでもいい存在」だと告白していました。健二を犠牲にして逃げた柊でしたが、柊の言葉を聞いていた婚約者に刺されて死んでしまいます。
美沙は、律と凛に、健二はどんなときも家族のために精一杯尽くしてくれていたことを諭します。子供たちがそれを受け入れたとき、健二が現れます。健二は殺されそうになった直前にとんでもない秘密を思い出したのです。ここに家族がたどり着いたのは、健二が車で無理心中を図ったからだったのでした。死の恐怖に晒されているようで、実はみんなもう死んでいるのです。健二は家族に謝罪します。
そこで最後のアトラクションが始まります。ここにいるのは全員死んだ家族たち。観覧車に家族で乗って、話し合いで平和的に一人を犠牲にすることに納得した一家族だけが、現世に戻れるというのです。健二は自分が死ぬといい、健二の真心が伝わった家族たちは皆で生き残る方法を考えようといいますが、結局健二が観覧車から落ちて死にます。美沙、律、凛は病院で目をさまします。3人は、柊と婚約者が現実世界でも無理心中していたのを知ります。あれは夢ではなかったのだと思い、そして自分たちを救った健二のために、強く生きていくことを誓います。
健二は次のバニーとして終園地に来る家族たちを迎えます。
本田真吾さんは『切子』を含め、かなり多作の作家さんのイメージがあります。お話も印象的で、ついつい読んでしまう魅力のある作家さんです。この作品も、本田さんの作品だということで安心して読めました。『切子』と、その続編の『切子・殺』は、グロいながらもかなりコミカルな展開もあるのですが、この作品はわりとシリアスに話が展開します。
家族のそれぞれがアトラクションの中で秘密を告白し、特に律は健二を軽蔑しているとはっきり主張し、家族は崩壊の危機に瀕します。が、健二のぶれない家族愛が美沙の気持ちを変え、また、柊の卑劣な振る舞いを見た上で健二の愛を感じた子どもたちは、最後には家族愛に芽生えます。結局、実は病気であと半年の命しかなかった健二が死んで、美沙、律、凛が生き残るのですが、私にはこれがちょっと意外な結末でした。話の性質と本田さんのお話の傾向から考えて、生き延びることを決意した家族3人に、結局は死がおそいかかる、後味の悪い結末を想像していたのです。でも、ちゃんと子どもたちと奥さんがパパの分も強く生きていくことを選択した、ある意味明るい終わりになっていました。このラストは読後感がよかったです。
健二の最大の秘密は、無理心中を図ったこと。「俺がいなかったら誰が家族を守るんだ」という理由で、自分の病気につきあわせて家族を死なせようとする、身勝手なお話だったのですが、それを反省して、家族に生きて欲しいと願うのは感動的な流れですが、その謝罪として健二が自ら死ぬ道を選ぶのはとても残念でした。末期がんでボロボロになっても生きるのも、それはそれで家族にとって重要なことでもあるので。「家族に迷惑をかけたくない」という気持ちもわかるし…答えの出ない永遠の課題だと思いました。
新しいバニーとして終園地を仕切る健二バニーは、やはり前職のバニーを調理して客前にだすのでしょうか?そしてバニーとしての役目を終えたら、調理されてしまうのでしょうか。やっぱり怖い本田真吾さんの作品でした。