虐殺ハッピーエンド

『虐殺ハッピーエンド』は、原作 宮月新さん、作画 向浦宏和さんの作品です。高校生の草壁真琴には妹がいます。妹の詩織は病に倒れ、意識もなくドナーを待つばかりです。

父は詩織に保険金をかけており、詩織の死を待つクズ人間です。

ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。

耐えきれなくなった真琴は神社で神に叫びます。幸せな未来が来ないなら、詩織にも自分にも明日なんて来なくていい!と。

次の日から、真琴と詩織の日々はループするようになります。次の日に進みためには真琴が憎む相手を殺さなければなりません。詩織へのドナーが決まり移植手術を1ヵ月後に控え、詩織の体力を考え、真琴は殺人マシンと化します。

刑事の九十九は、はやいうちに真琴があやしいと思い、マークし始めます。父も殺めた真琴は、自分たちを母が捨てたことから不幸が始まったと、母を殺害するために探します。そこで出会った少女相沢が母の娘であることがわかります。真琴の実の妹にあたり、詩織は父の連れ子だったのでした。

この街で、九十九は真琴を罠にかけ、真琴がタイムリープを経験し、タイムリープをぬけるための要素が殺人であることを突き止めます。その副産物として、相沢もタイムリープの能力を持つようになります。真琴は数ループの末、わなを抜けます。母を殺害するために会った真琴の前で母は真琴のために自殺します。それも真琴による殺人とカウントされ、日は進みます。相沢は九十九の同僚、水野に保護されます。

幼なじみの弥生も真琴の変化に気づき、善悪を超えて真琴に寄り添い、真琴を助けます。そんな弥生も、警察に監視されている真琴を逃がすために自殺をして日にちを進めます。

最終的に、真琴はこの呪いをかけた神について調べます。同様に呪いについて調べた水野も殺します。時折意識を取り戻す詩織は同級生の瀬戸に、兄を救って欲しいと頼み、相沢は瀬戸と行動を共にします。神社を調べると、最後に愛する家族の命を断つことで完全にタイムリープの呪いが解けることがわかります。

詩織のドナー移植手術が進む中、真琴は実の妹である相沢に自分を殺させます。葛藤の末真琴を殺した相沢は、それによって日にちが進んだことを確認します。しかし、瀬戸と相談した相沢はふと不安になります。本当に呪いは解けたのか?それとも、人を殺す使命が、真琴から相沢に移っただけなのか。相沢と瀬戸は緊張の中、固唾をのんで、午前0時がくるのを待ちます。

一巻から、辛さ全開のお話でした。毎日ひとりを殺さないと明日に進めない、しかも予断を許さない状態の妹と自分の時間は進んでしまうという…毎日ひとり殺すなんて、途方も無い話です。ところが、真琴は人を殺すことに慣れていくのです。悪人を複数監禁し、時限装置を作って毎日一人ずつ殺すようなことまでします。

最初の殺人は偶然で、それが「日を進める」ための必須条件であることがわかるのですが、そのあとはたまたま見かけたレイプ事件をきっかけに犯人たちを殺すことになり、レイプの被害者片桐から一方的に思慕されることになります。真琴にその気がないのにぐいぐい入り込んできて、一度ストーリーから去ったのにまた戻ってきて大切な展開で真琴と弥生の仲に嫉妬して二人の計画を壊すあたりとか、イライラします。もちろん、ストーリー上は真琴にさらに試練を与えるキャストなので、その作者さん目線では、読者がイライラするのは大成功です。

殺した相手が、詩織の担当看護師さんの息子で、看護師が警察の前で真琴の犯罪を暴露して真琴もそれを認めるけれど、ループを上手く利用してその状況をなかったことにするとか、もう固唾をのんで画面に見入ってしまいます。

母を探しに街の名前だけを頼りに出かけ、たまたま出会って泊まる場所を提供してくれた相沢の親が母で、相沢は妹だという展開にも違和感はありません。むしろ、一回だけ手紙を出した母の、その手紙の内容がとても気になり、真琴が自分を責めるように、読んでいれば全員に幸せな人生が待っていたのか、想像は膨らみます。

刑事の九十九の、尋常ではない犯人追求の姿勢も、このお話にちょうどよく狂っていて、最高でした。最初に読んだときは、真琴がかわいそうで九十九の追求が邪魔に思えました。でも、読み直して見ると私がお話を楽しむ気持ちにも余裕が出て、特にコンテナに真琴と相沢を閉じ込めてタイムリープを証明しようという、悪魔のような頭の冴え、そしてタイムリープが発生する24時に詩織を別の病院に搬送させようという、まさに悪魔の所業に、キャラとして惹きつけられました。真琴が自分にかけられた呪いに突き動かされているのに対して、九十九は「他の命を犠牲にしても」自分が狙った容疑者が犯人であることを確認したいという、内からくる衝動に突き動かされているのです。とても魅力的な対比だと思いました。

ラストに近づいたところで、瀬戸という中学生が重要人物として現れたのは新鮮でした。時々うっすらと意識を取り戻し、兄が何をしているかを把握しているらしき詩織の意識を助ける、殺人に関与していないピュアな人物です。体格もよくて、相沢といるとその態度の大きさから高校生にしか見えない瀬戸ですが、中学生として、詩織の願いを叶えてやりたいという気持ちで行動するのが魅力でした。

宮月さんは、『シグナル100』を読んですっかりファンになった作家さんですが、この作品で知った向浦さんもすごいです。1巻の表紙の真琴のいまにも壊れそうなギリギリの表情がとても魅力的なのですが、この表情には作品の中でも何度も出会えます。大人しい片桐が妄執の塊になっていく様も恐ろしくて目が離せませんでした。人物の表情がよく作りこまれていて、まるで実写ドラマを見ているような気持ちにありました。宮月さんは、ネームまで作り込んでから作画担当さんに渡すタイプの原作さんなので、画面構成や構図がほぼ決まっている中で作画担当の向浦さんのやり甲斐は、どんなふうにストーリーにあった絵柄で、読者に最大限アピールする絵を描くかということだと思うのですが、実際に素晴らしいお仕事で、向浦さんの今後の作品も要チェックだと思いました。

ラスト、相沢に呪いが引き継がれたかどうかわからないのも好きなラストです。あんなに兄の地獄を終わらせたがっていた詩織は、結局移植手術を受け、兄の命は失われます。兄と多くの人の血と、兄と姉(正確には義兄と義姉ですが)のとてつもない苦悩で贖われた自分の生を、どう受け止めて生きていくのかは、詩織にとって大きな問題となります。もし呪いが本当に解かれたなら、詩織の意識の問題にフォーカスせずに終わるのは難しいお話ですが、呪いが解けていないかもしれないという恐怖を、相沢と瀬戸、そして読者に味合わせることで、うまくまとまっている、と私は感じました。

とにかくずっと張り詰めていて、タイトルに「ハッピーエンド」とありながらも、人を快楽的には殺せない真琴がこんなループに陥ったなかでハッピーエンドはありえないと、ドキドキしながら、ずっとつらい思いをしながら、目が離せない作品でした。

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