マーダー・インカネーション

『マーダー・インカネーション』は、原作 菅原敬太さん、作画 稲光伸二さんの作品です。人が亡くなったとき目の前に現れて「あなたが24時間以内に人を3人殺せば亡くなった方を蘇らせます」と言うのは美国麻夜です。

最初にそう言われたのは柏原弓香です。

ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。

弓香の姉は飛び降り自殺しました。悲嘆にくれる弓香に麻夜は蘇りの話を持ちかけて激怒され追い払われます。しかし弓香は、姉は自殺ではなく同級生の三坂らのいじめにあって殺されたのではないか、と恋人の月島に示唆されます。

麻夜は弓香のペットの犬を蘇らせて弓香の信頼を得ます。「お姉ちゃんが生き返るならなんでもする」という弓香は、三坂と二人の男を殺します。後始末は麻夜が手配するといいます。そして弓香が姉の自殺場所に行くと、姉は息をふきかえしています。弓香は喜びますが、生き返ったことを認識した姉は再び飛び降り自殺をします。彼女が死んだのはいじめではありませんでした。姉は月島に片思いをしていました。月島を彼氏として妹から紹介された姉は「なんで弓香ばっかり」と思い、弓香を殺そうとしている自分に気づいたのでした。

このままでは妹を殺してしまう。そう思って自殺した姉は、蘇ってもすぐにまた何も言わずにビルを駆け上ってまた投身自殺します。弓香はわけがわかりませんが、また3人殺せば姉は蘇る、と、手始めに月島を呼び出します。

この作品は、菅原敬太さんの作品『隣町のカタストロフ』を読んで菅原さんにハマり、菅原さんの作品だったら原作でも読んでみたい!と手を伸ばしたものです。稲光さんの絵はモノクロが映えるキレイな絵で、麻夜のたまごのようなぷっくりした顔のラインがとても気に入りました。絵が好きで、画面にじっと見入ってしまいます。

お話はさすが菅原さん、おもしろかったです。インカネーションは化身とか権化とか肉体を与えるって意味だそうです。輪廻を意味するリインカーネーションとは語源が一緒だとか。いまググった情報ですが。なるほど、人を殺すと別の人の身体が与えられえるということでこのタイトルなのですね。

弓香のお話ではミスリードがあって、おねえちゃんが虐められていたかに見せかけて、実はヤンキーの子たちに助けられていました。妹を憎んでると言えない姉が、妹に「私はどうしても死ぬしかないの!邪魔しないで」と言わずに死ぬので、文字通り死ぬほど好きな月島くんを殺すことになります。妹が、姉が蘇ってもすぐ死ぬほどの気持ちを「パニックになっちゃったんだよね?」と自分に言い聞かせて、人を殺すのが全然苦にならなくなって「自分の大事な彼氏でも、姉のためだったら簡単に殺す」という気持ちに陥っているのがひどく恐ろしかったです。姉は何度生き返ってもすぐに自殺しそうですが、月島くんが死んでしまったと知ったらどうするでしょうか?あまりのことに茫然自失してかえって生きることになるのか、それとも今度こそ弓香を殺してしまうのか。ゾワゾワするラストが最高です。弓香はお姉ちゃんを想って一点物のアクセサリーをつくるほどなのに、そんなアクセサリーをあっさりさっき親しくなったばかりの友達にあげちゃうお姉ちゃん、という、姉妹の想いの温度差もとても面白かったです。

2つ目のお話では、学校の先生が主人公です。苦労して妻を生き返らせますが、そこには思いがけない理由がありました。そして、さらに思いもよらないラストが待っています。3つ目のお話では、もしかしたらあの人も同じ経験を?と思うことが起こり、主人公は生の重さを噛みしめます。最後のお話では、無人島という極限状態が舞台となります。

単純に契約もののフォーマットを繰り返すだけでなく4つのお話が全然違うテーマを持っているところもとても面白かったです。(と言っても、同じフォーマットを繰り返す契約ものも大好きです。)

稲光さんは人物や背景を3Dで作画しているということで、舞台となる家の3Dモデルを巻末で紹介してくれています。おそらく、1話でお姉ちゃんが自殺する校舎なども3D化しているのでしょうね。人物の顔も3Dで作られてるからこのぷっくり感が出るのかな?漫画家さんの作画の工程もいろいろで、とっても興味深く読みました。白黒のコントラストの美しさは、3Dなら誰でもだせるものではなく、稲光さん独自のセンスだと思います。若干表情が硬いような気がするシーンもないではないのですが、それもまた魅力です。表情がうまく出ているところの効果は抜群で、2話のラストで生徒たちが動揺する様子と、主人公がそれに気づかず満足げな表情で語るシーンにはぐっときました。

麻夜には亜夜、沙夜という姉がいて、3人でこの稼業(?)をしているようなのですが、3人が何者で、何を目的に人に殺しをさせてその報酬に甦りを実現しているのかは、残念ながら読者には明かされずにシリーズは終わりになってしまいました。本当は何かストーリーがあったのかな?それとももともとこれで終わりだったのか。もっともっと麻夜の「いただきました、『なんでもします』」の台詞を見たかったです。

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