『ブラック・オペレーション』はかずはしともさんの作品です。スーパーパートの大剛寺さんが暗躍するシリーズものです。
大剛寺さんはちょっと怖い顔。沖縄のリゾートホテルが舞台のときは、シーサーなんて言われていました。
ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。
一話では大剛寺は悪役です。新人バイトの水島のあまりの邪気のなさにいらだって、パートのスケジュール割に手を入れて水島に過酷なシフトを強要したり、お菓子を水島にだけ配らなかったり無視したりの嫌がらせをします。スケジュール割に手を入れたことが店にばれると、夜のシフトに水島とふたりで入ったときに、挙動不審の客を水島に対応させます。男は水島を襲います。水島はパート先からそのまま逃亡します。水島は、友人の生保レディから「大剛寺の夫は妻のモラハラで死んだというウワサがある。暴行は未遂だったし、いじめや無視ですんでよかった」と諭されます。水島が大剛寺の家に行ってみると、あのとき自分を襲った男が家に入って行きます。男は大剛寺の息子のようです。水島は、まどからニヤニヤして自分を見下ろしている大剛寺に戦慄します。
３話からは大剛寺のスタンスが変わります。職場でいじめにあう人がいると、加害者側に「あまあまよ。まるでキャンディにはちみつかけたみたい」などと、いじめの手ぬるさを指摘して、さらに過激ないじめをしかけるように促します。それにつられて加害者がいじめをすると、その結果は加害者自身に跳ね返ってきて、被害者が利益をこうむる話になります。たとえば、嫌がらせで主人公のスマホを盗んだパート仲間に入れ知恵して、主人公のスマホでオレオレ詐欺の電話をかけさせて主人公を危機に陥れたように見えますが、主人公にはスマホの紛失を警察に届けさせ、加害者の息子に金を受け取りにいかせて、加害者と息子をオレオレ詐欺の実行犯として逮捕させたりします。
最終話は、１話を大剛寺から見た話になります。大剛寺の息子は水島の息子から酷いいじめをうけて引きこもりになりました。水島は「子供には愛情をかければまっすぐ育つ」と大剛寺相手に自慢し、パート仲間がお土産を買ってくると「この観光地では別の店のほうがおいしから今度から気をつけて」と言うような無神経なところがあったのでした。きわめつけは、水島自慢の息子がパート先に顔をだしたとき、大剛寺という珍しい名前にもかかわらず、自分がいじめた相手と大剛寺が同じ名前だと気づかなかったこと。大剛寺は息子に「あれが水島の母。どうしたい？」と聞いた結果が暴行未遂事件になったのでした。
かずはしさんの漫画は『オズの魔法使い』をはじめ、ファンタジーやホラーで読んでいたので、パートの主婦が主人公だという設定が斬新でした。大剛寺は、１話では、「家事とは勝手がちがうでしょ？」と話しかけてくるあたりまでは、よい先輩に思えましたが、シフトが偏らないようにプログラミングされているスケジュールアプリの結果をいじって、忙しいランチタイムに水島を入れて自分や子分はランチタイムを避けるという手段に出たあたりでは憎々しい感じでした。それが、夫の保険金で潤っていて本当は働く必要もなく、ニートの息子に水島をおそわせたあたり、本気でやばい人だと思わされ、ラスト、水島を笑って見下ろしている姿は恐怖でした。
２話はまったく違う、仕事ができる女が、仕事はできないどころか足手まといだけど男に媚びるのは得意な部下にフィアンセを取られる話でしたが、３話からは、大剛寺さんが加害者に「あまあまよ」と話しかけるのをきっかけに、加害者が自滅して主人公が幸せになる話に生まれ変わりました。そういうフォーマットになった経緯は後書き漫画に描かれていて、とっても興味深いです。漫画家さんは、バイトも普通と違って芸術系のバイトをしてたんだ、ファミレスバイトのお話を描くためには取材したりいろいろ大変なんだ、というのもわかって面白かったです。
１話の、大剛寺さんの、いいこちゃんにたいする敵意も面白かったのですが、フォーマットになってからの大剛寺さんの活躍はめちゃくちゃおもしろかったです。「おしるこにチョコレート入れたみたい」とか、あまあまをいろんなあり得ないスイーツで表現するのもおもしろかったです。大剛寺さんは顔が怖いという設定でしたが、むっすり形の顔にひっつめ、おだんごの髪型も映えてました。
最終話は読んでいて切なくなりました。ハッピーで人を恨んだり陥れることがなく、でも想像力がなくて気づかずに人を傷つける水島。顔がいかついからという理由で根も葉もない「夫をモラハラで殺した」とウワサされている大剛寺。外面がよく親と仲も良く、でも実は性根の腐った水島の息子。いまでもいじめの苦しみがフラッシュバックする大剛寺の息子。同じ話でも、視点が違うとこんな切なさがある。でも１話は１話でちゃんと完成されている。
でもやっぱり大剛寺さんのルックスがとにかくよかったな。おもしろい作品でした。
