アンラッキーヤングメン

『アンラッキーヤングメン』は作画 藤原カムイさん、原作 大塚英志さんの作品です。Tが書いたシナリオをもとに、現金輸送車から3億円を強奪するお話です。

学生運動たけなわの時期の出来事です。

ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。

Nは網走番外地で生まれ、きょうだい4人で母親に置き去りにされたことがあります。そのときは行政によって発見され、母は子供たちを引き取りましたが、愛情たっぷりに育ったとは言えない身の上です。父はどこかの列車の中で野垂れ死に、送られてきた遺体に母は憎しみの言葉を吐きます。そんなNの夢はアメリカに行くことでしたが、夢はかないません。アメリカ人の家に盗みに入ったときに見つけた拳銃で4人を殺した後、東京にでてきてボーイをしながらケイコという少女のヒモをしていますが、肉体関係はありません。そういうことは結婚する人とするものだと信じているからです。

TはNの職場の先輩で、お笑い芸人をしながら映画のシナリオを書き、監督をめざしています。Tも女のヒモです。洋子(ヨーコ)は学生運動にのめり込んでいます。きれいな長髪で、身持ちが堅く、誰にも身体を許さないので知られています。

陽子(ヨーコ)は名門校白百合に通うお嬢様ですが、親も学校も自分の前にひれ伏せさせ、制服で好き勝手をしてNらとつるんでいます。Nに惚れていますがケイコ同様相手にされず、Tと寝てNの気を引こうとしています。

Kも学生運動をしながら映画をとっています。薫はウリセンボーイですが親は警官です。七生は有名小説家のMにかしづきながら、Nの生き方にも興味を持っています。薫の父は過去に学生のデモに対峙したとき、反抗的な学生の目に薫の目を重ね合わせ、学生のメットが外れているのに警棒を頭に振り下ろした過去があります。その学生の父親もまた刑事です。

洋子はKに乱暴されます。それをきっかけにNと洋子は関係をもち、ケイコは故郷に帰ります。ケイコは親の借金から逃れてきたことをTにうちあけた後、去ります。

そんな人間関係の中、TはNのために初めてシナリオを書き上げます。タイトルは「アンラッキーヤングメン」で、3億円を強奪するストーリーです。Tがニセの白バイを作り、薫は父の制服を供出します。Nが強奪に成功し、待ちあわせ場所に行くと待っていたのは捕らえられた薫と、Kや陽子でした。KたちはNから3億円を奪います。

薫は父が自分のために用意したアリバイづくりの要員を殺します。母は「薫ちゃん、一緒に死のう」とグラスに毒を注ぎます。その最中に帰ってきた父は、毒のはいったグラスと水だけの入ったグラスを並べ「生き残った方が母さんを守ろう」と言います。薫は「父さんには同じに見えるグラスでも母さんはちゃんとひとつずつ持ち主を決めていた。そして母さんはまず自分のグラスに毒を注ぐ人だ」と言い、毒の入ったグラスを選んで死にます。後日、母も息子の後を追います。

Kが3億を持っていることを公安は把握しており、保険金を払ったアメリカの会社に知らせます。洋子はNと離れてKらと行動を共にし、入れ替えで陽子がNらと一緒にいます。洋子はこの3億を見せ金にしてソ連を騙し、核爆弾のスイッチを手に入れます。保険会社は洋子を拉致して3億円の在り処をつきとめます。薫の父に息子を殺された刑事は保険会社のフィクサーとして動いて、Tに情報をもらします。

Nは連続射殺事件の犯人として逮捕されます。Kは航空機をハイジャックして北朝鮮に向かいます。Mは七生を連れて自決します。洋子は凄惨な身内でのリンチ事件を起こします。陽子は平凡に生きると言います。刑事とTは3億円事件の口止め料として500万円ずつを受け取ります。Tはその金でケイコの親の借金を精算してケイコと暮らしますが、すぐに去ります。Tは最後にケイコに、今後、Nが処刑されたらある公園で会おう、そして世界を変えよう、と声をかけます。

時が経って、Tはカンヌで賞を受けます。昔は誰からも「つまらない」と言われた「まいったなあ」というギャグに、いまでは誰もが拍手喝采します。そんなとき、N処刑のニュースが流れます。Tは受賞パーティーを辞退して急遽日本に帰り、公園に行きますが、ケイコは現れません。Tは、洋子がソ連をだまして手に入れた核弾頭のスイッチを押しますが、何も起きません。Tはスイッチをゴミ箱に捨て、「ついてねーな」と口にします。

私は女子校の出身です。この作品には、「白百合」に通っていると言われ、現実の白百合学園の制服に酷似した制服を着た陽子がでてきます。女子校の先生というのは一枚岩ではなく、ひとりの生徒が学校を自分の前にひれ伏せさせるなんて不可能です。先生以上にやっかいなのはOGです。彼女らの一部は卒業した母校に誇りを持っているため、保護者抜きに制服でうろつき、喫茶店に入り、大学生くらいの男性と交友している生徒を見ると、素行不良と決めつけて重い処分を求めて学校に怒鳴り込んできて、実際に生徒が処分を受けるまで黙っていません。その輩は自分自身も社会的に高い地位を持っていることが多いので、そういった人々をもひとりの高校生がコントロールするなど不可能です。女子校出身者なせいで、そんなディテールが気になって、作品全体をちゃんと読めませんでした。

というわけで、最初に読んだときは陽子の存在が邪魔になって感情移入できず、読み進めることができませんでした。でも、稲垣みさおさんの『鬼灯の聲~昭和連続射殺事件~』を読んだことで、永山則夫に興味を持ち、永山をモデルにしたNが主人公である作品ということで、再度興味がわいてきてこの作品を読み返してみたら、とっても面白かったです。

3億円事件をモチーフにした作品は、原作 白田さん、漫画 MUSASHIさんの『府中三億円事件を計画・実行したのは私です。』が、青春群像劇としてとても面白かったのですが、この作品も群像劇として面白かったです。TはNたちよりちょっと年上の人物として描かれているような気がするのですが、この年代の2-3歳の違い、とくに学生かそうでないか、成人か未成年かという違いは大きそうなので、実際にはあまり年は離れていないようです。

現実に警官の息子で服毒自殺したと言われている少年が、薫のモデルなのだろうと思います。薫は、昔ノンフィクションの3億円事件の本を読んだときの少年に関するルポや、『府中三億円事件を…』にでてきた省吾とは全然イメージは異なります。でも、原作の大塚さんが、モデルとして誰かを連想させることがあったとしてもそこに捉えられてことを想定して書いていない、ということなので、私もあまり捉えられずに読みたいと思います。

よど号事件や永田洋子を彷彿とさせる学生運動と三島を彷彿とさせる有名な男色系作家のお話が3億円事件にからんでくるのはとても面白かったです。3億円を払ったとされる保険会社が人身拉致をして金の在り処を突き止めて回収し、公安もそれを把握しているというストーリーも面白かったです。

洋子が、Kに乱暴されただけでなく、資金調達のためのブルーフィルムにするためにレイプ現場を撮影されるくだりはとてもショックでした。当時のことは私にはわからないですが、身内でのリンチ事件の殺人の動機に、女性だからと言ってチャラチャラしている、という言いがかりがあったと記憶しています。そんなふうに女性らしくあることを否定している運動家たちが、他方では男子学生が仲間の女子学生をレイプして撮影して女性の魂を殺して、それを資金源にするというのには虫唾が走ります。当事そんなことをしていた革命の戦士たちは、その罪を償うことなくあっさり活動を辞めて大企業に就職して、今や退職して悠々自適な生活を送っているのだろうな、と、憎しみを覚えてしまいました。学生運動が実らなかったという大きな挫折を抱えて、大人になっても「自分より上の世代、下の世代が悪い」と、なんでも人のせいにしているような人が、カスタマーハラスメントをおこすような人になりがちなんじゃないかと思ったり…そんな人は、Kみたいなごく一部の活動家だった人だけだと思いますし、カスハラを起こす人は幅広い世代にいそうなので、ちょっと極論しちゃいました。ごめんなさい。実際、ブルーフィルムで迷いながらも洋子をレイプする役を果たしたSは、後悔し、その後は洋子を守ることに自分の生きる道を見出します。

そんな洋子は一度はショックから内向的になり、Nと手をつないで歩き、Nの仕事が終わるのを編み物をしながら待ったりする時期もありましたが、薫の死に挫ける弱いNを見て「Nがそんなんじゃ私は弱いお姫様ではいられないね」と強くなります。その気持ちは同じ女性としてわかります。弱くてあくまでも庇護されるか搾取される女性も多いとは思いますが、困難にあって男性の弱さをみると強くならずにはいられない女性も多いと思います。洋子の場合はここで強くなったことで後に仲間へのリンチ事件にまでつき進んでいくようなので、切なくなります。

一方の陽子は、大学生の学生運動にまでクチバシをさしはさんで好き放題してきたのに、Nが逮捕されたときにTに聞かれると「短大行って、結婚して、子供作って、普通に生きる」というので、これまたショックです。親も学校も社会も自分の前にひれ伏せさせた、と豪語していた高校生が、卒業したらおかあさんになることしか考えないんでしょうか。この時代の女性の人生観ってそんなものだったのでしょうか。学生時代は好き勝手やるけど、それを卒業したらおかあさんになるのが当時のビジョンだったんでしょうか。陽子のこの言葉は、いわゆる「男女雇用機会均等法」以降の私には理解できませんが、当時は社会がそうだったのかな、と思うと衝撃は大きいです。今の幼稚園児が社会人になる頃には「日本ってジェンダーギャップランキングで156カ国中120位だったんだって。マジかよ」と笑えるような国になっているんでしょうか?意外となってないような悪い予感もします。

Nが、既に4人を射殺してきた犯罪者なのに、相手が洋子という知ってる人間になると撃てないのは、リアルで面白かったです。無記名の人間は殺せても、人生を負っていることを自分が知っているリアルな人間を、Nは殺せないのです。同様に、薫という仲間が死んでしまうと、Nはその葬式にすら行けません。人の抱える矛盾を見せられるようです。

稲垣さんの『鬼灯の聲…』では主人公は女性にモテるほど人間関係をつくれそうにありませんでしたが、ここでのNはケイコ、洋子、陽子に強く求められるし、Tにはかわいがられ、七生には関心を持たれる、読者から見てもサッパリしていて爽やかないい男風です。このいい男のどこに4人を惨殺する素養があったのでしょうか。そのあたりを全く描かないことで読者に自由に様々なことを考えさせているように見えます。

全体的に暗くてレトロ感のある藤原さんの作画はとても魅力的でした。このお話にぴったりで、ストーリーに入り込ませる力を持っています。後書きによると、デジタルでアナログ感を出すことに注力されたそうです。白と黒のコントラストと精密な描き込み。とても素敵でした。

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