靴shoe cream (1)

『靴shoe cream (1)』(シュークリーム)は画 尾々根正さん、原作 大鳥居明楽さんの作品です。商店街の中に新しくオープンしたのは Shell’s Repair。少女に見える25才、海愛(カイア)が店主の靴修理屋です。

カイアは姉の形見のメガネを持っており、これをかけると全く別人になります。表情から口調まで、何もかもが変わります。靴を細かくアナライズして、履き主の普段の生活スタイルから性格まで見抜きます。

ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。

持ち前の人懐こさであっという間に商店街に馴染んだカイアは順調に靴修理屋の仕事を営みます。1話完結型でお話は進み、毎回持ち込まれる靴をカイアがアナライズしてカスタマイズし、お客様の人生まで変えます。

あるお話では、ベテランのピン芸人白山(カイアは彼が一世を風靡したコンビ漫才の片割れであったことを知りません。)が持ち込んだちょっとくたびれた白いシューズをアナライズして、白山が頑固さから現状を直視できなくなっていることを見抜きます。カイアは、劇的な視点の変化をもたらすため、思い切って2色に染めてスペクテイターシューズにすることを勧めます。

一週間後、かっこよく生まれ変わった靴に喜ぶ白山は「色が互いに引き立て合う」と説明するカイアの言葉を聞いて「スペクテイター」の意味を尋ねます。「観客という意味なんですよ」と答えるカイアの言葉を聞いて白山はハッとします。

コンビを解消してからの自分はプロの芸人としてプライドを持って演じていた。「コンビの方がよかった」と言われた時には内心、客の不見識に失望してた。でも、「観客」が楽しみたいのはピンで芸人としての技を誇っている自分ではなく、コンビでいることで互いに引き出される漫才の味なのだ。白山は、さっそくスペクテイターシューズを履いて、田舎に引きこもっている元相方の黒木を迎えに行きます。

コンビが復活して活躍するのを見てカイアはあぜんとします。カイアは黒木のファンだったのです。まさかあのお客様が黒木さんの相方の白山さんだったとは。興奮するカイアを、常連の航我が笑います。

靴理人』(シューリニン)と同じ、尾々根さん、大鳥居さんのコンビで描かれるこの作品。靴理人を読んで「もっと靴のお話を読みたい!」と思ったら、お二人がタグを組んだ作品があることに気づき、迷うことなく手を出しました!

靴理人と違って女性が主人公です。しかも、靴を分析するときは別人のようになるというのが、前作とは大きく異なります。カイアちゃんのお姉さんは自殺していて、お姉さんが残していったヤドカリにヒミツのメッセージが残されていることにコウガの指摘で気づいたりしているので、お姉さんの死には何か謎がありそうです。

靴理人も大好きだったのですが、カイアのアナライズもとってもおもしろいです。彼氏にアメカジなブーツを勧められてしっくりこない女の子に厚手の靴下を勧めるエピソードもとても好きです。大鳥居さんが展開するストーリーと靴のうんちくが興味深いのはもちろん、尾々根さんが描く靴が本当に美しくて、読んでいて心から満足できるからです。ブーツの絵を見ると「ちょうどいい靴下を履いてこの素敵なブーツを楽しんでね!」と素直に思うし、自分でもチャレンジしてみたくなります。

自分の靴の減り方も気になって、靴理人の翔良やカイアだったらどんな風に私を分析してくれるだろう、と妄想してしまいます。それから、靴をもっと大事にしよう!と思えるのもこのお話の素敵なところです。

何となく、カイアちゃんのほうが、翔良くんよりうんちくが深いというか、靴にフォーカスしている感じがあるには、翔良くんは物書きで、人への興味も大きく、それに対してカイアちゃんはより靴のことに夢中だからでしょうか?尾々根さんと大鳥居さんの描くお話が進化し続けているように感じました。

尾々根さんと大鳥居さんは女性の靴にからんだミステリーもすごく上手く、靴理人でもミュールにからんだ怖い話があるのですが、靴creamでもミステリーというか、オカルティックなお話があります。ピンヒールを履く女の話です。カイアはこの女性、真麻の靴をアナライズして、難なく彼女のふくらはぎに無理がきていて、緊張が張りつめて、もうギリギリになっているのを見抜き、ピンヒールを少しお休みすることを勧めます。

これは女性として納得いく話です。私はピンヒールは履けませんが好きですし、(ピンヒールはあきらめて)しっかりしたハイヒールを履くことが好きです。自宅は駅のすぐそばで、電車に乗る時間も長くはないのでハイヒールでも仕事に行けるのですが、実家は駅から25分歩くうえ、満員電車で1時間近く立って乗るので、とてもじゃないけどハイヒールははけません。第2の心臓ともいわれるふくらはぎも緊張しますし、力がかかる足のつけ根の部分の痛みはひどいし、細いつま先のせいで指も圧迫され、爪が隣の指を傷つけたりします。ピンヒールって、車で移動する人のものでは?と思ったりします。

でも、真麻が、誰がなんと言おうと私はこれからもピンヒールを履く、というのもわかります。足が痛かろうが、より疲れていようが、好きなものは好きなのです。

ところが、真麻に異変が生じます。というより、彼女の飼い猫、ウェコに異変が生じるのです。ウェコが、真麻が大切にしているハイヒールの靴を壊してしまうのです。ウェコはただならぬものを感じてハイヒールを攻撃し、最後には自分も命を落としてしまいます。真麻は、1足だけ残ったハイヒールを履きますが、この靴は足に馴染むものの、脱ごうとしても脱げません。通りすがりの男性が脱がせてくれようとしますが、強く引っ張ると勝手に足が男性を攻撃し、勝手にその場から真麻をすばやく立ち去らせます。

真麻はとまれずにどこまでも歩き続け、ついには血で真っ赤に染まった靴をはいたまま山中で餓死した状態で発見されます。

がーーん。真麻はコウガを始めとする男性を奴隷のように使い、カイアにもつんけんするイヤな女ではあったのですが、ハイヒールを愛していたがために一足のハイヒールに取り憑かれて殺されてしまったのでした。因果応報とはちょっと違うのです。カイアにせっかくカスタマイズを勧められたのをにべもなく断った真麻だったし、人を人とも思わない女ではあったけど、唯一愛していたがためにハイヒールに殺されてしまうとは。とっても印象的なお話で、とっても気に入ったのでした。

真麻の愛猫が「ウェコ」というのですが、この名前には覚えがあります。手塚治虫さんの『バンパイヤ』の第2部(未完)にでてくる、ネコの姿に似た奇獣の種族名がウェコなのです。なので、真麻が愛猫を呼んだ瞬間に「これは怖い話だ」と思いました。実際には怖いのはウェコちゃんではなく、ハイヒールだったのですが…ウェコの名前は意図的だったのでしょうか?それとも偶然?

お姉さんの死の謎もあるし、もっと靴のうんちくを知りたいし、素敵な靴の絵も見たいし、この先も読みたくてウズウズしています。

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