『生者の行進 Revenge』は、原作 みつちよ丸さん、作画 佐藤祐紀さんの作品です。『生者の行進』のメインキャラ省吾が大人になり中学校の臨時教員として赴任します。
巷では、いじめの加害者が公然と猟奇自殺を遂げるという事件が流行っています。
ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。
省吾のはとこ、刑事の恭一郎によると、加害者に共通点はなく、被害者が同じお守りを持っているところが共通点でした。恭一郎は押収したお守りを省吾に見せます。省吾の目でみると、お守りのなかの白い紙には「おとうさん ふくしゅうしてくれてありがとう あと5人 そのあとはみなごろしだ」と書かれており、省吾の目の前で数字は4に変わります。
省吾が受け持つクラスのリカは大山田にいじめられていて、給食に虫を入れられたりしていました。リカもお守りを持っていて、辛いときお守りを握りしめると少しだけ気が休まります。自殺を試みて省吾に助けられたリカは思い切って親に相談し、しばらく学校を休むことになります。しかしリカは、お守りを握って大山田だけは許せない、死んでしまえ、と憎悪をつのらせます。
するとグロテスクなおじさんの生霊が大山田の部屋に現れ、大山田に虫を食べさせて窒息させます。この事件も、表面上は大山田が自分で虫を食べて自殺したようにしかみえないのでした。
省吾はリカと話し、リカのお守りを調べようとしますが、お守りは意志を持ってリカから離れ、つぎのいじめられっ子に渡ります。リカは大山田を事実上殺した罪悪感から省吾を手伝います。いじめられっ子をみると放っておけない幽霊、千里や、同僚教師、不破の助けも得て、省吾とリカは、お守りは3つあったことをつきとめます。
同時に、省吾はかつての同級生、佐倉の行方を追っていました。佐倉は絵に描いたようないい子で、そのことで若干クラスで浮いていました。霊感少年が故に自身もクラスに溶け込めなかった省吾に優しく接してくれる佐倉に、省吾は惚れており、行方不明になったとの噂を聞きつけてからずっと探していたのでした。
佐倉は、同僚教師、相良に捕らえられていました。相良はかつて、息子と妻を自殺で失っており、自殺した沢田まりえの死を悲しむ父親の誠に同情し、佐倉の体を使ってまりえをよみがえらせようとしていたのでした。復讐を行うおじさんの生霊は相田誠でした。
相良の協力者は中学生の犬飼さとし。3つのお守りを作ったのもさとしです。さとしの前世は相良の息子。自殺してまっすぐ自分をいじめていた犬飼正史の末の弟の中に入ったのでした。さとしはいい人のふりをして相田まりえへのいじめを影で操ったり、家で父や兄たちを苛立たせたりして生きてきました。相田まりえの本当の悩みはいじめではなく父の誠による虐待で、まりえは蘇りたくないと知りながら相良の活動に手を貸し、いじめっ子たちの霊と佐倉の体を使って蘇る者が何になるのか見たがっていました。
殺されたいじめっ子たちの数が満願に達したとき、省吾は佐倉の意識の中に入って佐倉を助けようとします。優しい佐倉はいじめっ子たちを赦して自分の中に取り込んで育んでいて、相良は彼らに暴君として振る舞うことで罪の意識を植え付けていました。省吾は佐倉に、いじめっ子たちを成仏させるにはいったん拒否することが必要だと説得し、佐倉は自分を取り戻します。省吾は相良と戦い、相良を消滅させます。
犬飼さとしは、相良の息子だった頃のクラスメイトの協力を得て、兄の正史に人殺しをさせます。最後には正史と父を相打ちさせて本懐を遂げ、自分も消滅します。
現世に戻った佐倉はすべてを忘れています。一度は「忘れるほどつらいことなら思い出さないほうがいい」と格好をつけた省吾でしたが、やはり自分の本心は佐倉を自分の手で守りたいと感じていることに気づき、佐倉を迎えにいきます。ふたりの幸せな人生を予感させて物語は終わります。
6巻で完結しているのですが、全6巻とは思えない盛りだくさんな内容でした。この作品が発行されていることに気づいたのは、先日『生者の行進』の感想を書いていたときで、その時点で5巻まででていて一気読みしました。『生者の行進』が好きだったので、作画が変わってどうなるかな、とは思ったのですが、省吾が成長したせいもあってスッキリした感じでよかったです。泪とまどかがチラッと姿を見せてくれます。唯一、まどかだけは「みつちよ丸さんのまどかが好き」と思いましたが、まどか以外はみつちよ丸さんも佐藤さんも遜色なく、生霊もちゃんとグロく、佐倉の意識世界のなかのいじめっ子たちが人形なのもかわいくて良かったです。何より、佐倉、リカ、千里、二階堂ありさがかわいくて瑞々しくて素敵でした。
ん?二階堂ありさ?芸能人っぽい名前ですが、きいたことある。江戸川エドガワさんの『生贄投票』にでてくる、生徒に虐められて病んで自殺しちゃう先生の名前でした。こんなこともあるんですね。
泪が反目していた義父と和解していたり、まどかがまだトラウマを克服できていなかったり、という現状がわかるのはとっても嬉しかったです。全然関係ない話ですが、私は海外ドラマの『グッドワイフ』が好きで、ラスト主人公がどんな選択をしたかわからず終わるところが、好きだけどじれったいとも思っていました。続編の『グッドファイト』で、グッドワイフの主人公がゲスト出演してその後がわかる、という話を作る予定だったのが、出演料で折り合わずお流れになったんだとか。漫画ならそういうことは起きないので良かったです。
このお話は見どころがたくさんあって、前半はなんと言っても、幽霊の千里ちゃんだと思います。超強い格闘家でありながら、結核で命を落とした千里は、いじめられっ子をみると感情移入して暴走する傾向があります。リカの中に入って「生きている」幸せを感じるところは、早くに亡くなってしまった少女の無念さと生者の素晴らしさが現れていて、後に犬飼さとしのせいで悪霊化してしまったことへの伏線にもなっています。悪霊化した自分をただ単に嘆くのではなく、これも私なの、と冷静に見ているところも哀しくて気持ちが揺さぶられました。いじめられる側だけでなく、いじめる側にも救済が必要な人がいるのかもしれない、という視点は何十年も彷徨ってきたからこそのもので、物語を多角的にしています。
後半は、佐倉の精神世界。いじめっ子たちがかわいい人形で、相良先生にすぐやられて傷だらけになりますが、佐倉に手厚く修繕してもらって毎回蘇ります。省吾の説明によると、いじめっ子たちがか弱い人形の姿をしているのも、相良先生が暴君なのも、すべて佐倉にいじめっ子たちの霊を受け入れやすくするためだそうで、相良先生の頭の良さに感じ入りましたが、それ以上に、単純にビジュアルがよく、読者としても反省して罪の意識を刷り込まれるいじめっ子たちを受け入れやすくしてくれました。これが延々連載されていたことを考えるとちょっとシュールですが。私にとって特に大山田の人形は魅力的でした。
一貫しているのはお守りを作った犬飼さとし少年の物語です。お守りは3つあって、最後の1行が違います。「そのあとはみなごろしだ」「これでねむれる」「せいなるたましいはふっかつする」満願したときに有効だったのは最後のもので、それで、蘇りを拒否した相田まりえのかわりに何か邪悪なものが復活しそうになりました。でもこの3つを作ったさとしの意図は何だったのでしょう?「これでねむれる」であれば、まりえの意識は静かに眠るはずで、さとしはどの結末になるかを楽しんでいたのでしょうか?でもまりえの意志は最初からきまっていたはずなので、その読みは浅い気がします。さとしの行動をみると、どうしても何が蘇るのか見てみたいという純粋な好奇心を感じるので、最初から「聖なる魂は復活する」を目指していたように思えるので、ちょっと謎です。これは、私が解答を見落としているのかもしれません。でも何故3つ作ったかはずっと気になっていたので…見落としているなら私ってば、超バカですね。
そして、さとしの前世が相良先生の息子で、ひどいいじめと、理解してくれない父への絶望と、いじめっ子の犬飼正史が親の権力を使っていじめをもみ消すことへの憤りが、犬飼家の一員として生まれ変わるという選択をさせ、ずっと長兄と父を憎み続ける人生だったことをかんがえると、本当に不憫でなりません。リベンジというタイトルではありますが、そのためだけに短い人生を終えるなんて。正史の正気を失わせるために、さとしは昔のクラスメイトの力を借ります。これはちょっと唐突でした。後でちゃんと説明はされるのですが、「誰だっけこの人?私またエピソードを見落としてる?」とパニックになりました。
佐倉と省吾のハッピーエンド。これは大満足でした。
みつちよ丸さんの後書きも楽しかったです。お話を作ってネームを切って作画もする負担がどれだけ大きいか、とか、言葉の監修やポーズモデルがどんなに大切か、漫画を読むまでどれだけ沢山の人が関わっているのか、覗うことができて楽しかったです。