『ニーチェ先生〜コンビニに、さとり世代の新人が舞い降りた〜』は、漫画 ハシモトさん、原作 松駒さんの作品です。コンビニで働く松駒さんが、コンビニでの出来事をツイート(今はポスト)したものをベースに構成されています。
松駒さんのポストがバズったきっかけは、新人バイトの仁井くんが、「お客さまは神様だろうが」と言ってくる、ベテランでも対応に苦慮するウザ客を「神は死んだ」で対応して撃退したことに受けたショックを、効果的に表現したことです。松駒さんはひそかに、仁井くんに「ニーチェ先生」との二つ名をつけ、彼を観察しての感想を次々とポストしていきます。ほかにも魅力的な仲間が多く、「永遠の就活生」としてのツライ気持ちも吐露しながら、物語は進みます。
ここから先は、ネタバレを含みつつ、私の個人的な感想を述べています。ご注意下さい。

ニーチェ先生は2013年9月に連載が始まって、雑誌を変えたりしながらいまでも連載中。単行本は23巻まで出ているはず。普段は連載が終了しているものの感想を書くのですが(最後まで読むと感想が変わることも多いから。)ニーチェ先生は多分これからもあまりテイスト変わらないんじゃないかな、と想像しています。
私もXをつかっていた時期がありますが、いまはアカウント放置状態です。松駒さんのTogetterがバズったのはチラリと目にした覚えがあるようなないような。漫画化を知った時に「えっ?どうやるのかな!」と興味津々だった覚えはあります。
「お客様は神様です」は三波春夫さんで、今はカスハラする人にいいように使われています。あまりにカスハラの拠り所にされているため「三波さんの言うお客様とは、コンサートにわざわざ来てくれた聴衆のことで、彼らを神と思ってパフォーマンスを捧げる、の意味だった」との解説をよく聞くようになりました。

「神は死んだ」は当然ながらニーチェで「絶対的に善悪を決める神という存在は、昔は成立したかもしれない。でも今の時代は善も悪も、神の存在に頼らず自分で判断する責任があるのだ」というハナシだった、ような気がします。何十年も前に授業で習ったことで、原典やその翻訳にあたったわけでもないので、間違っていたらごめんなさい。この思想が私にとって意味があったのは、子供の頃からキリスト教教育を受けてきたからです。日本でごくゆるくキリスト教に影響されていても、ツライときについ「かみさまーー」と口走ってしまうことからも、欧州人が「神は死んだ」と宣言するのがどんなに重大なことかはわかります。
でもここでは人間の存在のどうこうや社会を構成する個々の人間の思想とかを論じたいのではなく、大学で仏教を専攻している仁井くんが、間違ったイディオムを使って威張ってくる「自称神様」に、間違ったイディオムであることを十分承知のうえで「神は死んだ」と、撃退した。そんな後輩の毅然とした態度に主人公が感動したハナシで、、、いやいやそんなシリアスな感じじゃなくて、切り返しが言うまでもなく面白いのですが、、、いやいやそんな解説は野暮中の野暮。仁井くんや松駒さんのキャラクターが最初からキッチリと確立しているのが、とにかくすごいです。そして、どんどんでてくるキャラクターたちが、彼らに負けず劣らず確立しています。「初出のときとキャラ違うよね」ということがない、と思います。
「と思います」って、ちょっと弱気になっちゃいましたが。たくさんキャラがいるのに、ビジュアルも性格もちゃんと目に浮かんでくるし、久しぶりに出てきても「誰だっけ?」とはならない。これって当然のようでいても、1話完結型の長期連載ではムズカシイこともあるよね、と私は思います。でもこの作品ではキャラがブレないし、いつも同じコンビニにいる仲間だけじゃなく、時々でてくるJKバイトやらともだちや幼なじみやら、スミからスミまでずずいとキャラが濃い!ハシモトさんと松駒さんがどのように役割分担しているかわからないのですが、見た目も性格も「ちょっと忘れててもすぐ誰だかわかる」のも嬉しいです。単行本の続きが出て読み始めると「えーと。このキャラ誰だっけ」なんてことは、大好きな漫画でもよくありますから。
こないだWikipediaで調べたところ、現実では、松駒さんがツイートしてたことがニーチェ先生にバレてしまい、それをきっかけにTogetterでまとめて集大成にしたところバズった、と書いてありました。作中では、仁井くんは引き続きつぶやくことを許してくれます。Togetterにまとめたってことは、モデルになったニーチェ先生も、それまでのツイートは許してくれたってことだと思います。それって、かなり心が広いですよね。松駒さんがニーチェ先生をリスペクトしたツイートだったから許してくれたとかはあるんでしょうけど。
ストーリーはいわゆる「サザエさん方式」かと思いきや、ゆるやかに物語はすすみ、松駒さんは「作家先生」になって締め切りに追われても、相変わらず「就活生」のポジションです。コイズミさんのせいでレジ袋有料化されて、手間が増えたことに怒っていた松駒さんももう慣れたみたい(現実世界でいまでもコンビニバイトしてるかは分からないけど)。松駒さんのアイデアがあれば、連載も何十年と続きそうですが、仁井くんが作中で大学を卒業するときがいずれ来ると思うんですよ。仁井くんはそつなく就職するキャラだと思うんだけど、そうなったら松駒さん、どうするだろうなー。
そういえば、ムカシから「コンビニの店員さんってやること多くてタイヘンそうだな」とは思ってたんですが、この漫画を読んでて「コンビニはもちろん、接客業、タイヘンすぎる」とわかりました。定年になったらパートでスーパーとかコンビニとかできるかな?と思ってたけど、私なんかには、とてもじゃないけどムリです。世の接客業のみなさまを本気で尊敬します!